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【次世代交通】
自動運転導入の適地はどこか

2019年05月28日 井上岳一


 先日、自動運転に関する国の報告会の席上、ある委員から、「過疎地とニュータウンとどちらが自動運転を導入しやすいと思うか?」と質問を受けた。
 公共交通がなきに等しい過疎地には、確かに自動運転を生かした移動サービスに対するニーズがある。車や人の数が少なく、自動運転車を走らせやすいイメージもある。だから、過疎地から優先して自動運転を導入しようというスタンスを国もとってきた。
 私自身、過疎地の交通問題をなんとかしたくて自動運転に取り組み始めたので、国のスタンスはよく分かる。しかし、現実的には過疎地での自動運転の実装は簡単ではないという認識を今は持つ。

 なぜ、過疎地は簡単ではないのか。
 確かに移動に対するニーズは強い。だが、過疎地で求められる移動は“ラストワンマイル”ではなく、“ラストテンマイル”である。最寄りのスーパーや病院まで10キロ以上あるというのはザラで、そこのニーズを満たしてくれる移動手段を住民達は求めている。これはラストワンマイルから実装しようとしている国の政策と矛盾する。
 また、確かに人や車は少ないが、それゆえに道幅が狭く、道路の整備も行き届いていないという問題がある。山がちでトンネルが多くGPSの入りが悪いところも多い。要は道路の条件が悪いのである。
 なにより最大の問題は、何かあった時の対応をとることの難しさだ。過疎地で走る自動運転車で何かトラブルがあったらどうするか。最寄りの都市からはどんなに車を飛ばしても30分から1時間はかかる。結局、緊急時を考えれば、人を乗せておかなければいけないということになり、自動運転のコストメリットを出しにくくなる。

 では、ニュータウンはどうか。
 過疎地との最大の違いは、その人口密度の高さである。“団地”と言われるくらいで、人がまとまって住んでいる。居住者の年齢構成も似ている。それはまとまった移動ニーズの存在を意味する上、スーパーなど最低限の生活施設も残っていることが多い。だから、ニュータウン内の、自宅からスーパーまでの移動をサポートするような、ラストマイルの移動手段が役に立つ余地がある。過疎地ではラスト10マイルだが、ニュータウンではラストの1〜2マイルで済む。
 計画的に整備されているから、過疎地に比べれば道路条件も良い。袋小路になっているから住民以外の車の出入りも限られる。人がいるし、都市部からも近いから、非常時対応も速い。

 だから過疎地よりニュータウンのほうが自動運転の実装はしやすい、と思う。国の報告会でもそう答えた。

 しかし今となって思うのは、もっと正確に言えば、過疎地かニュータウンかより、人がどれだけそのエリアを管理できるのかのほうが重要だということだ。路上駐車をしない、交通ルールを守る、道路を綺麗に維持する、何かあった時にはすぐに人が助けに行ける。こういうことが自動運転の実装の鍵になる。ラストテンマイルよりワストワンマイルというのも、距離が短いほうが人の管理下に起きやすいし、不確実性も減るからだ。

 技術の揺籃期である今は、人の管理下、制御の環の中で実装をし、徐々にその環を広げていくという段階論が必要だ。元々計画的に作られているニュータウンは管理や制御になじむから、過疎地よりニュータウンなのである。

 自動運転の導入を求める地域は多い。だが、今の段階でそれを求めるなら、そこは管理下におけるか?とまず問うてみて欲しい。自動運転車がどこでも自由に走り回れるようになるのは、おそらく2030年代だ。2020年代は、自動運転と人の共存に苦労が求められる10年間になりそうだ。でもだからこそ面白い時期だとも言える。困難な2020年代を乗り切った企業や団体に2030年代は微笑むはずだ。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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