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モビリティ・サービスで得られる個人データの利活用

2019年05月28日 武藤一浩


 ラストマイルのコミュニティ・モビリティ・サービス実現を目指した取り組み(まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム))では、実証実験を通じて得られる個人データの利活用に注目しています。利用者に登録いただく際の属性や移動履歴を用いれば、行政にとっては住民の生活実態を把握するための調査分析を効率的かつ定量的に実施でき、きめ細かく無駄のない行政サービスが展開できる可能性があります。また、民間企業にとっては、地域住民の生活における潜在ニーズを掘り起こし、付加価値の高いサービス提供を実現する手かがりになると期待されています。
 ただし、これら個人データの取り扱いには、法的な観点から注意が必要です。実際、モビリティ・サービスの実証実験に参加したそれぞれの団体は当社も含め、個人データを保有することに慎重にならざるを得ませんでした。個人データの保有は他の組織にお願いしつつも、IDに紐付けられた属性や移動履歴のデータは分析の対象にしたいというスタンスです。

 個人データも含めたデータ利活用が飛躍的に進んでいるのは、中国やシンガポールなど国家資本主義的な国々が中心です。そうした国々では国家がすべてを管理しており、当然のように個人データも含めたすべてのデータを管理するのも国家となっています。結果、データ利活用を取り入れた最先端の街づくり推進を圧倒的スピードで実現しています。
 一方、民主主義的な国々では、個人を保護するための法律が強固で、個々人においても、それを他者が利用することについては、抵抗意識が根強いです。よい例が、グーグルの姉妹会社であるサイドウォーク・ラボがスマートシティ・プロジェクトを計画したトロントでしょう。ウォーターフロントに未来型都市をつくる計画は、グーグルの関与が知れた当初から、個人データ利用に慎重となる人々や、プライバシー問題に関わる都市計画の専門家に警戒され、地域側の抵抗は大きくなり、最終的には支援者が計画から撤退するなどにまで発展して、開発の最終計画公表が先延ばしになりました。今年に入ると、カナダ自由人権協会(CCLA)が個人のプライバシーの権利を侵害する計画だと計画中止を求めて訴訟を起こしました。欧州でも、欧州委員会(EC)が2018年7月にグーグルに対して、欧州連合競争法(独占禁止法)に違反したとして罰金を科すと発表をしたのは記憶に新しいところです。民主主義的な国々では、利益を総取りするようなデータの扱いは今後受け入れられないという趨勢がはっきりしたと言えます。

 これからの未来のまちづくりには、得られる個人データが健全に利活用される仕組みは欠かせなくなるでしょう。しかし、民主主義的な国々では技術や概念、計画が先行していながらも、国家資本主義的な国々に社会実装の段階で追い抜かれ、結果的に技術力さえも後塵を拝する結果となりつつあります。
 では、わが国はどうでしょうか。日本政府がこれからのまちづくりとして、2019年2月に掲げたスーパーシティ構想の最終報告書をみると、「住民参画」という注目の文言があります。これは、地域住民の総意を得ながら、規制や制度に抵触するような新しい技術を取り入れていく街づくりを目指していく考えと読み取れます。個人データの取り扱いに関してもこの流れに沿うことが望ましいでしょう。個人データの利活用促進に向けては、個人に紐づくデータを個人の所有物とし、個人データを利活用できる先を個人自らが責任をもって選び、預けて、資金を得る「情報銀行」という概念があります。本構想で示された考えは、この「情報銀行」の実現を後押しし、個人データの利活用による最先端の都市や街づくりの推進、関連技術力の向上につなげるものと言えるでしょう。
 「責任を個人に押し付けるのか?」という声が聞こえてきそうですが、データ利活用で最先端の都市や街づくりを先行している国家資本主義的な国々への対抗手段として、現時点で考えられるわが国ならではの方針としては、間違ってはいないと思います。その実現は、わが国の国民レベルでの理解や、民間企業の動き次第で十分に可能と捉え、当社も今後注力する研究テーマとしていく考えです。まずは「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」で実装できることを目指しますので、ご興味のある方はぜひご一緒いただけますと幸いです。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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