アベノミクス開始以降、65歳以上の高齢者(以下、「シニア」)の労働参加が拡大しているものの、足元、就業を希望するシニアの就業が十分に実現できているとは言い難い状況にある。
こうしたなか、リカレント教育の就業促進効果について、近年、内閣府や労働経済学者を中心に傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching)による差の差の推計(Difference-in-Differences)といった精緻なミクロ計量分析に基づく因果関係の検証が行われており、有意な効果があることが報告されている。
もっとも、既存研究の対象は主に現役世代であり、シニア層にフォーカスされていない。このため、既存の分析結果をシニアに当てはめるにはやや飛躍があると考えられる。そこで本稿では、先行研究と同様に精緻なミクロ計量分析に基づき、シニアにおけるリカレント教育の就業促進効果を計測した。主な結果は以下の5点である。
第1に、リカレント教育は、非就業シニアの新規就業確率を有意に押し上げ、その効果は実施から少なくとも3年後までは持続する。
第2に、就業シニアの無業化確率も有意に押し下げ、その効果は実施から少なくとも3年後までは持続する。
第3に、就業シニアの無業化抑制効果の方が、非就業シニアの新規就業効果よりもインパクトが大きい。
第4に、すべてのシニアにリカレント教育を実施した場合には、マクロ的にも就業率を大きく改善させることができる。
第5に、リカレント教育の費用と効果を比較すると、非就業シニアのケース、就業シニアのケースともに効果が費用を上回っている。
以上のことから、国・地方自治体や企業は、団塊世代が70歳代に突入し、シニアの潜在労働力が急増している今こそ、シニアのためのリカレント教育を充実させる必要がある。加えて、シニアに対するリカレント教育の効果がより大きくなるよう、効率的な職業情報紹介サイトの開発・普及や、シニアを取り巻く雇用・賃金制度の改革、職業訓練プログラムの充実なども同時に行っていくことが重要である。
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JRIレビュー2019 Vol.11,No.72
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