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【エネルギー】
中国市場のビジネス機会を見いだす冷静な心

2019年04月23日 瀧口信一郎


 1991年に観光で初めて中国の広州や上海を訪れた時、今の中国の成長は想像できなかった。外国人が使う兌換券と中国国民が使う人民幣に分かれ、外国製品を買える兌換券の価値が高く、驚くほど安く物を買うことができ、日本と中国の経済力の差は歴然としていた。1997年に南京を訪れた時、そこでセメント工場を立ち上げていた父は、仕事上で中国人に接し、この国は間違いなく成長すると言ったが、観光で訪れただけの筆者は、日本に比べると開発の遅れている街を目の前にして、中国の成長を想像もできなかった。「中国は遅れている」という認識にとらわれ、それがなぜか、「これからも成長できない」という勝手な解釈にすり替わっていた。

 今や中国の成長は明らかだ。中国の都市は大きく発展し、新しいビルが立ち並ぶ。中国企業の成長もネット、新聞、テレビを通じて誰もが知るところとなった。

 「中国が席巻する世界エネルギー市場 リスクとチャンス」 井熊均・王てい・瀧口信一郎著、日刊工業新聞社)で指摘したように、中国は1949年の中華人民共和国成立以来、特定の市場に狙いを定め、技術移転の仕組みを確立し、多くの市場を成長させてきた。エネルギー分野でも太陽光発電、風力発電で世界トップに立ち、火力発電、原子力発電の分野でも世界を席巻する勢いである。中国は技術移転の枠組みを、制度的に整え、多くの技術を先進国から国内に持ち込んだ。中国人は、英語を小学生の頃から学び、世界を学びの場としており、日本に比べて圧倒的にグローバル化している。中国の技術吸収力はすさまじい。アメリカを始め先進国で懸念が増大し、米中貿易戦争に発展したのも理解できる。

 中国が技術吸収した大半は、スパイのような違法な手段ではなく、一人ひとりの中国人が真摯に努力した結果だ。2000年にアメリカのビジネススクールで出会った中国人は働きながら膨大な勉強量をこなすハードワーカーだった。中国で出会うエネルギー会社の人も優秀だ。技術発展が進んだ中国が技術吸収に邁進する時代はもうすぐ終わるが、そこで中国の成長が止まるとは考えられない。巨大市場を背景に官民そろって成長分野に投資する手法は今後も有効だからである。中国が使う技術が中国国内で開発された場合、他国はさらに置いていかれる可能性もある。米中貿易戦争で中国経済は一時的に低迷するかもしれないが、例えば2030年に中国が衰退していると言い切れる人はいるだろうか。巨大で先進的になった中国市場は依然として目の前にあるはずだ。

 にもかかわらず、今でも、「中国は技術的に遅れている」と思い込んでいる日本のビジネスパーソンは多い。安い労働力で経済的には成長したかもしれないが、技術は遅れているだろう、という見方をしているのである。これは過去のイメージに引きずられたり、見たくない事実から目をそらしたりする、といった心理的な側面が影響しているのではないか。中国に居る日本政府関係者、ビジネスパーソンのなかには、中国の技術の力を心底理解している方もいるはずだが、そのような声は意外に伝わっていない。結果として、国と国の間に大きな情報の壁が出来上がってしまっているのだ。

 人口が減少し経済力の低下する日本は、巨大で先端的な中国市場を無視することはできない。日本のビジネスパーソンとして取るべき態度は冷静に中国との関わり方を判断することだ。中国の実像に正しく向き合わなければ、中国との付き合い方を間違え、その結果としてビジネス上の機会損失につながる。この見えない壁を取り払って、真の中国を見ることを一人ひとりが心がけていかなければならないのである。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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