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平成30年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業
妊娠・出産に当たっての適切な栄養・食生活に関する調査

2019年04月05日 小島明子青山温子


*本事業は、平成30年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業の国庫補助を受けて実施したものです。

事業の目的
 妊娠期及び授乳期は、母子の健康の確保のために、適切な食習慣に努めることが極めて重要な時期である。厚生労働省では「妊産婦のための食生活指針」(平成18年2月)の策定や、妊娠可能な年齢の女性に対する神経管閉鎖障害発症リスクに関する通知を通して、正しい情報の提供に取り組んでいる。
 「『健やか親子21』(第2次)推進検討会報告書」(厚生労働省)によれば、若い女性を中心に、食事の偏りや低体重(やせ)の者の割合が増加するなど健康上の問題が改善されていないことが懸念されている。
 また、子どもにおいては、低出生体重児が減らないことや、神経管閉鎖障害の一つである二分脊椎は、1万出生当たり5~6人程度の発症が続き、減少が見られない。神経管閉鎖障害発症リスクの低減のために、妊娠初期に葉酸を摂取していた者の割合が2割に留まるとのデータもあり、改めて妊娠・出産に当たっての栄養・食生活に関する正しい情報提供の在り方を検討する必要がある。
 本事業では、妊娠可能な年齢の女性及び妊産婦の栄養・食生活に関する実態調査、医療機関等における妊産婦健診時の栄養・食生活に関する指導の実態調査、妊娠可能な年齢の女性に対する葉酸に関する科学的根拠の更新を行う。妊娠可能な年齢の女性及び妊産婦の栄養・食生活に関する実態調査を参考にしながら、妊娠可能な女性及び妊産婦に向けた栄養・食生活に関する正しい情報提供の在り方を検討し、その一環として妊娠・出産に当たって必要な正しい栄養・食生活に関する啓発の手法及び資材を開発する。
 本事業の目的は、妊娠可能な年齢の女性及び妊産婦に向けた栄養・食生活の改善と医療機関等による妊産婦への食生活向上に向けた取組を効果的に進めていくための基礎資料を得るとともに、妊娠・出産に当たっての栄養・食生活に関する正しい情報提供を行うための資材を開発することである。

主たる事業の内容
 本調査における主な実施事項は以下のとおりである。
1.妊娠可能な年齢の女性及び妊産婦の栄養・食生活に関する実態調査
2.医療機関等における妊産婦健診時の栄養・食生活に関する指導の実態調査
3.妊娠可能な年齢の女性に対する葉酸に関する科学的根拠の更新
4.妊娠・出産に当たって必要な正しい栄養・食生活に関する啓発の手法及び資材の開発

調査結果のまとめ
アンケート調査結果のまとめ
(アンケート調査目的1:妊娠可能な女性及び妊産婦の栄養・食生活の実態を明らかにし、特に働きかけが必要なセグメントを抽出する。)
アンケート調査結果を踏まえて、明らかとなったポイントは以下の通り。
(妊娠経験がない妊娠可能な女性の栄養・食生活の実態)
・朝食の欠食状況は、 20代・30代で15%以上である。
・「女性に推奨される食行動」の認知度は総じて低く、「「主食」を中心に、エネルギーをしっかりととること」、「食塩は控えめにすること」、「脂肪は質と量を考えて摂ること」の項目で特に顕著である。年代別では、15~19歳の認知度が、他の年代に比べて高い傾向にある。「妊産婦に推奨される食行動」の認知度は、「女性に推奨される食行動」の認知度よりもさらに低く、ほぼすべての項目で40%を下回っている。
・「女性に推奨される食行動」の関心度は、「胎児の神経管閉鎖障害発症リスク低減のため、妊娠前から葉酸を摂取すること」を除く全ての項目で70%を超えている。一方、葉酸の摂取に関する項目の関心度は6割前後である。
・「女性に推奨される食行動」の実践度で、40%を上回る項目は「一日三食をしっかりととること」のみである。葉酸の摂取に関する項目は特に低く、どの年代においても10%を下回っている。
・「現在の食生活の向上」に対する関心度は総じて高く、80%を超えている。一方、実践度については30%未満に留まっており、若い年代ほどこの傾向が顕著である。
・「食品を選ぶのに困らない知識がある」、「食事を整えるのに困らない知識がある」、「食事を整えるのに困らない技術がある」のいずれについても、40%未満である。
・10代後半では4割以上がダイエットのためになんらかの取組を実施しており、「運動量」を増やすことをせずに「食事量を減らす」ことのみでダイエットをしている人は25%以上存在する。

(妊産婦の栄養・食生活の実態)
・妊産婦の朝食の摂取状況は、家庭食が最も多く、全体的にその割合は妊娠経験のない女性よりも多く、妊産婦の朝食の欠食者の割合は、妊娠経験のない女性に比べて全体的に低い。しかし、妊産婦のうち、20代前半のほとんどの群では、朝食欠食者の割合が10%を超えており、他の年齢群よりも高い傾向がみられる。
・「妊産婦に推奨される食行動」の認知度は概ね60%を超えているものの、妊娠経験のない女性と共通に推奨される食行動のうち、「「主食」を中心に、エネルギーをしっかりととること」、「脂肪は質と量を考えて摂ること」、妊産婦特有に推奨される食行動のうち「胎児の先天奇形の増加が報告されているため、妊娠初期にはビタミンAの過剰摂取に注意すること」、「授乳中は体重の変化を確認しながらエネルギー付加量を調節する必要があること」では認知度は低くなっている。属性別にみると、認知度は、20代の妊産婦(経産婦)で低く、30代の妊産婦(初産婦)で高い傾向にある。
・「妊産婦に推奨される食行動」の関心度は、全ての項目で80%を超えている。
・「妊産婦に推奨される食行動」の実践度のうち、「食塩は控えめにすること」、「脂肪は質と量を考えて摂ること」、「授乳中は体重の変化を確認しながらエネルギー付加量を調節する必要があること(産婦)」の項目で、総じて低位に留まっている。属性別にみると、実践度は、20代前半の妊産婦で低く、特に産婦や経産婦で顕著である。30代の妊産婦で高い傾向にあり、妊婦ではより実践度が高い。
・「現在の食生活の向上」に対する関心度は総じて高く、90%を超えている。一方、実践度については60%以下に留まっており、産婦、経産婦、20代で、この傾向が顕著である。
・「食品を選ぶのに困らない知識がある」、「食事を整えるのに困らない知識がある」、「食事を整えるのに困らない技術がある」のいずれについても、60%未満であり、特に20代で知識や技術の不足が顕著である。加えて、「食事を整えるのに困らない技術」については、30代後半でも低位に留まっている。
・また、ダイエットについては、産婦で実施している割合が高い。なかでも、20代前半の産婦では、「運動量」を増やすことをせずに「食事量を減らす」ことのみでダイエットをしている人が20%以上存在する。

 上記のポイントを踏まえ、食生活向上に向けた働きかけが必要なセグメントは3つ挙げられる。1つ目は、20代及び30代の妊娠経験のない女性である。朝食の欠食をしている女性が15%以上存在しており、推奨される食行動に対する認知度や、葉酸の摂取に対する関心も低い。加えて、食事を整えるために必要な知識や技術にも乏しい。全体的に人数も多い層であると考えられ、定型化された資材等を通じた働きかけが有効だと考えられる。
 2つ目は、20代前半の経産婦である。朝食の欠食をしている女性やダイエットをしている女性が一定割合存在しており、推奨される食行動に対する認知度や実践度が低い。加えて、食事を整えるために必要な知識や技術も乏しい。若くして子どもを出産している女性であるため、医療機関での健診等などの機会を活用し、重点的に働きかける必要があると考えられる。
 3つ目は、10代後半の女性である。年齢的に、家庭で保護者が食事を準備しているケースが多く、教育現場での食生活に関する教育の機会も相対的に多い層であるため、他のセグメントと比べると現時点での問題は多くはない。しかし、食事制限のみのダイエットをしている女性が多く、また数年後には親元を離れて自立して生活する者の割合が高くなる可能性を考えると、学校教育等で将来の妊娠・出産に向けた体づくりの重要性を知る機会をより充実させることが有効だと考えられる。

(アンケート調査目的2:医療機関による妊産婦への情報提供と、妊産婦の情報ニーズとのギャップを明らかにする。)
アンケート調査結果を踏まえて、明らかとなったポイントは以下の通り。
(医療機関の妊産婦に対する食生活向上に向けた取組の実施状況)
・妊婦との面談機会における食生活向上のための情報提供・相談対応の場として、妊婦健診、母親学級・両親学級、そして栄養相談が多い傾向がみられた。主な内容として、妊婦健診時では「妊婦の食生活に関する個々の状況や悩みに合わせた相談対応」(70.7%)、母親学級・両親学級では「上記の資料等を使用した妊娠中の一般的な食生活の説明」(54.3%)、そして栄養相談では「妊婦の食生活に関する個々の状況や悩みに合わせた相談対応」(62.3%)が最も多い。一方、マタニティエクササイズや心理相談では、食生活向上のための取組はあまり実施されていない。
・産婦との面談機会における食生活向上のための情報提供・相談対応の場として、産婦健診、育児相談、栄養相談、母乳相談が多い傾向がみられた。「産婦の食生活に関する個々の状況や悩みに合わせた相談対応」が、産婦健診時では54.0%、栄養相談では46.0%、そして母乳相談では70.7%である。一方、母親学級・両親学級、産後エクササイズ、離乳食教室、心理相談、そしてショートステイ(産後ケア)では、食生活向上のための情報提供や相談対応は行われているものの、その割合は非常に少ない。
・妊婦の食に関する課題やニーズの収集を実施している医療機関は、55.2%である。一方、産婦の食に関する課題やニーズの収集については、妊婦よりも少なく43.7%である。
・妊婦向けの食生活向上に向けた取組について、事業評価を実施している医療機関は、35.3%である。一方、産婦向けの食生活向上に向けた取組について、事業評価を実施している医療機関は、26.5%である。
・事業評価を実施した医療機関のうち、事業評価をその後の取組の検討に反映している医療機関は妊婦向けで89.9%、産婦向けで94.2%である。

(妊産婦の情報ニーズ)
・医療機関による妊産婦のためのサービスについて、「妊婦健診」は8割以上の妊産婦が、「産婦健診(2週間健診、1か月健診)」は7割以上の産婦が利用している。「妊婦健診」、「産婦健診(2週間健診、1か月健診)」には利用率は劣るものの、産婦(初産婦)では、5割以上が「母親学級・両親学級(出産前)」を利用している。また、30代の産婦(初産婦)では、「離乳食講座」や「母乳相談」を利用している割合が30%を超えている。
・「妊婦健診」時における食に関する情報提供について、50%以上の妊産婦が「情報提供を受けた」と回答している。また、産婦(初産婦)や30代後半の産婦(経産婦)については、「情報取得」に加えて「相談をした」と回答した人も30%程度存在する。
・「産婦健診(2週間健診、1か月健診)」時における食に関する情報提供について、40%以上の妊産婦が「情報提供を受けた」と回答している。一方で、「相談をした」と回答した人は30%未満に留まっている。
・「母親学級・両親学級(出産前)」時における食に関する情報提供について、70%以上の妊産婦が「情報提供を受けた」と回答している。また、20代の経産婦や30代後半の妊婦(経産婦)については、「情報取得」に加えて「相談をした」と回答した人も30%以上存在する。
・「妊婦健診」、「産婦健診(2週間健診、1か月健診)」、「母親学級・両親学級(出産前)」において、「情報提供を受けた」人は、総じて役立った、と感じている。この傾向は、「相談」までできた人でより顕著である。

 上記のポイントを踏まえると、医療機関による面談機会における食生活向上のための情報提供・相談対応、食に関する課題やニーズの収集、事業評価の実施、すべてにおいて、妊婦よりも産婦の取組が手薄である。ただし、妊婦向けの情報提供では、一般的な資料配布を行っているケースも多いが、産婦向けでは、様々な機会を通じて、個々の相談を行っている傾向がある。妊産婦側の情報取得ニーズを見ると、「妊婦健診」では、情報提供を受け、相談までできた割合が高いセグメントが多い一方で、「産婦健診(2週間健診、1か月健診)」では、相談に至っている割合は低い。情報提供にとどまらず、相談までできた女性は、妊婦及び産婦いずれもがその機会を役立てていることから、医療機関による産婦に対する支援ニーズの余地は十分残されている。

(アンケート調査目的3:医療機関と自治体等との連携の課題を明らかにする。)
アンケート調査結果を踏まえて、明らかとなったポイントは以下の通り。
(医療機関が抱える課題や必要な支援)
・妊産婦の食生活の向上の取組を実施する際の課題として、「貴院内の人材不足(妊産婦一人当たりに使える時間が短い、など)」(52.7%)が最も多い。「自治体との連携不足(必要な情報がうまく連携できていない、など)」(12.3%)は1割程度である。
・妊産婦の食生活の向上の取組を実施する際に必要な支援として、「妊産婦への情報提供に役立つパンフレット等のツール」(72.7%)が最も多い。「他の医療機関との情報交換を密にできるネットワークやそれを構築する場」(19.5%)、「取組において連携可能な企業・団体等のリスト」(19.8%)は2割以下である。

(自治体及び医療機関が妊産婦に提供する食行動の情報提供)
・「妊産婦に推奨される食行動」に関する知識について、ほぼすべての項目で30%以上が医療機関から情報提供されている。なかでも、「食塩は控えめにすること」、「妊娠前の体型を考慮した望ましい体重増加量にすること」の項目は、50%以上が医療機関から情報提供されている。
・平成29年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「妊産婦等への食育推進に関する調査」によれば、推奨される食行動に関する自治体からの情報提供に関しては、30%以上の項目が妊婦(経産婦)に対する情報提供では少ない。なかでも「妊娠初期には神経管障害発症リスクの低減のため、葉酸を摂取すること」は、妊婦(経産婦)、初産婦(20~24歳)で30%以下である。
 上記のポイントを踏まえると、自治体との連携不足を認識している医療機関や、企業等との連携を希望する医療機関は非常に少ない。一方で、妊産婦に対する医療機関と自治体からの情報提供の内容を比べると、医療機関からの情報提供が十分行われているのに対して、自治体においては、特に、神経管障害発症リスクの低減のため、妊娠初期には葉酸を摂取することの重要性を含め十分に伝えきれていない可能性がある。医療機関においては、妊娠後の受診が多いことが予想され、葉酸摂取の必要性を中心に、医療機関に行く前段階からの情報提供が重要である。医療機関等との連携拡大を通じて、自治体からの情報提供の質を高めていく方法はあると考えられる。

(アンケート調査目的4:妊娠可能な女性及び妊産婦に向けた栄養・食生活に関する効果的な情報提供の在り方を検討する。)
アンケート調査結果を踏まえて、明らかとなったポイントは以下の通り。
(妊娠可能な女性及び妊産婦が収集している情報の種類や手段)
・妊産婦が興味を持って収集しているトピックスの上位は、「お子さまの発育・健康・病気」、「お子さまの教育・しつけ」、など子ども関連の情報が多い。
・妊産婦が、「お子さまの発育・健康・病気」や「お子さまの教育・しつけ」の情報収集に使用しているツールの上位は「スマートフォン」、「家族・友人・知人との会話(対面、電話など)」、「テレビ」。最も使用しているツールのトップは「スマートフォン」。
・妊娠経験のない女性が興味を持って収集しているトピックスの上位は、「美容・コスメ」、「ファッション」。10代では「ダイエット」が3位(38.3%)、20代前半では「グルメ」が3位(28.8%)、20代後半、30代前半では「料理・レシピ」が3位、30代では、「マネー(家計・節約など)」が上位、30代後半で「ご自身の健康・病気」 が1位(38.8%)。
・妊娠経験のない女性が、「美容・コスメ」の情報収集に使用しているツールの上位は「スマートフォン」、「家族・友人・知人との会話(対面、電話など)」、「PC」。最も使用しているツールのトップは「スマートフォン」。
・妊娠経験のない女性が、「料理・レシピ」の情報収集に使用しているツールの上位は「スマートフォン」、「家族・友人・知人との会話(対面、電話など)」、「PC」。最も使用しているツールのトップは「スマートフォン」。

 上記のポイントを踏まえると、妊娠経験のない女性に対する情報提供においては、美容というテーマと紐づけ、スマートフォン、PCで閲覧できることが重要だといえる。
 妊産婦に対する情報提供においては、子どもの発育や健康等の「子ども」というテーマと紐づけ、スマートフォンで見られることが重要だといえる。

葉酸調査結果のまとめ
 厚生労働省による葉酸摂取に係る通知発出以降(2001年以降)に発表された、葉酸とNTDリスクの関連に関する論文および国際機関による報告を収集した。
 その結果、各国における対策により、世界的なNTDの発症数は減少傾向にあるものの、国内においては変化していないこと、二分脊椎症については増加傾向にあることか示された。また、妊娠の可能性がある女性に対する葉酸サプリメント利用の推奨などの自発的な葉酸摂取量増加の推進のみでは、適切なサプリメント利用行動につながらず、NTDリスク低減効果は期待できないことが複数の報告で示されていた。一方、葉酸の小麦製品への強化義務はNTDリスク低減に効果的であったが、その発症リスクの低下には限界もあることや、効果の大きさは義務化前の発症率により異なること、対象となる若年女性以外の人々に対する強制的な葉酸摂取量増加による健康リスクの懸念について指摘があることが明らかとなった。
 本調査はシステマティックレビューの形式をとっておらず、全ての該当論文を収集できたとは言い難いという限界点がある。また、日本および近隣のアジア諸国におけるデータが非常に少ない特徴がある。さらに、葉酸摂取量増大による健康リスク、遺伝子多型によるNTDリスクへの影響、葉酸以外の栄養素摂取のNTDリスクへの影響、その他食生活や体格、体質、健康状態など葉酸以外のNTD要因と考えられる因子の影響、適切な葉酸摂取量の検討などに関する文献については、収集していない。
 以上より、国内における今後のより効果的なNTD予防のための葉酸摂取対策について検討を行うには、上記の本調査の限界点を補うための、より広範囲における詳細なデータを系統的に収集し、それらの資料をもってリスクとベネフィットの両面に対する慎重な議論を行う必要があると考えられる。
 また、神経管閉鎖障害のリスクの生体指標として赤血球葉酸値が有用であることが示された。赤血球葉酸濃度から、NTD予防のために必要な葉酸摂取量を提案することが可能である。これまで葉酸摂取量の評価に注目して検討していたが、赤血球葉酸濃度の評価も進めていくことが重要であると考えられる。

調査結果からの示唆
 調査研究の結果を踏まえた上で、得られた示唆は以下の5つである。
1.妊娠・出産前の女性等の食生活向上に向けた活動
(課題)
 妊娠経験のない女性においては、食生活向上に対する関心は高いものの、若い世代ほど実践できていないのが現状である。食事を整えるための十分な知識や技術がないことがその要因の1つといえる。
 また、特に妊娠経験のない女性においては、将来の妊娠・出産に向けて、葉酸の摂取に対する知識が重要であるものの、年代を問わず、その重要性がほとんど認識されていない。

(提言)
 妊娠経験のない女性の食生活向上に向けた活動の取組を拡充させることが、各地方公共団体、医療機関、企業を含めて、社会的課題の1つであるという共通認識を持つことが必要である。特に妊娠経験のない女性に対しては、将来の妊娠・出産に向けて、妊娠前から葉酸の摂取が重要である、という情報提供を行っていくことが期待される。
 一方で、本調査では、妊娠経験のない女性のうち、子どもを持ちたいと考える女性は6割程度であることが明らかになっており、その普及啓発には、こうした価値観の多様性への配慮が求められる。そのため、本調査で開発した資材では、将来の妊娠・出産に必要な体づくりにつながる情報提供ではあるものの、妊娠・出産を目的として明示することは差し控えた。
 今後、各地方公共団体が情報提供を行う際には、婚姻届を提出した女性に対して、インターネットに掲載された情報の案内をするなど、一律に配布資料を提供するといった形式とは異なった情報提供の仕方を検討する必要がある。
 加えて、企業においては、働く女性が増えている現状を踏まえ、女性従業員の健康支援の一環として行う取組のなかで、多様な価値観に配慮した上で、本調査で開発された資材等を通じて、葉酸の摂取の重要性を啓発していくことが期待される。

2.提供する情報の質向上に向けた医療機関と各地方公共団体の連携強化
(課題)
 妊産婦の食生活の向上の取組を実施する際の課題として、各地方公共団体との連携不足を認識している医療機関は非常に少ない。一方で、医療機関と各地方公共団体の妊産婦に対する情報提供の内容を比べると、妊娠初期には葉酸を摂取することの重要性をはじめとし、各地方公共団体では、食生活向上に向けた情報提供が十分になされていない状況が窺える。

(提言)
 各地方公共団体では、医療機関が実施している妊産婦の食生活向上に向けた情報提供に関する取組を把握した上で、各地方公共団体及び医療機関双方で補完し合いながら、食生活向上に向けた情報提供を充実させることが期待される。

3.産婦の支援の強化
(課題)
 妊産婦は、推奨される食行動への関心度は非常に高いものの、実際に正しい食事を整えるという実行段階で躓いている。特に産婦や経産婦でその傾向は顕著である。医療機関の妊産婦に向けた支援を妊婦と産婦で比較すると、産婦に向けた食生活に関する取組は、妊婦に向けた取組に比べてやや手薄である。

(提言)
 医療機関が提供する産婦向けの相談機会の際には、より個別の相談対応を強化することが求められる。
 現在、人材不足のため、妊産婦一人当たりに使える時間が短いなどといった課題を掲げている医療機関が一定割合存在している。一方で、食生活に関する情報提供ツールが必要だという認識の下で、妊産婦の食生活向上に向けた独自資料を配布している医療機関は少なくない。医療機関が個別の相談対応により時間がかけられるように、各地方自治体が作成しているパンフレット等のツールの共有を通じて、医療機関の負担を減らすことが期待される。

4.葉酸調査おける広範囲かつ詳細なデータの系統的な収集
(課題)
 本調査はシステマティックレビューの形式をとっておらず、全ての該当論文を収集できてはいない。日本および近隣のアジア諸国におけるデータが非常に少なく、さらに、葉酸摂取量増大による健康リスク、遺伝子多型によるNTDリスクへの影響、葉酸以外の栄養素摂取のNTDリスクへの影響、その他食生活や体格、体質、健康状態など葉酸以外のNTD要因と考えられる因子の影響、適切な葉酸摂取量の検討などに関する文献については、収集できていない。
 また、本調査では、神経管閉鎖障害のリスクの生体指標として赤血球葉酸値が有用であることが示されたことから、赤血球葉酸濃度から、NTD予防のために必要な葉酸摂取量を提案することが可能であることが指摘できる。

(提言)
 国内における今後のより効果的なNTD予防のための葉酸摂取対策について検討を行うには、上記の本調査の限界点を補うための、より広範囲における詳細なデータを系統的に収集していく必要がある。また、これまで葉酸摂取量の評価に注目して検討していたが、赤血球葉酸濃度の評価も進めていくことが重要であると考えられる。

5.事業評価手法の仕組み
(課題)
 妊産婦向けの食生活向上に向けた取組について、事業評価を実施した医療機関のうち、事業評価をその後の取組の検討に反映している医療機関は多いものの、事業評価を行っている医療機関がそもそも少ないのが実状である。

(提言)
医療機関の妊産婦に対する食生活向上に向けた取組状況を自主評価できる仕組みの構築が有効である。そのような仕組みがあれば、医療機関が自主的に取組の改善を検討することを可能にし、PDCAをまわすための一助になると考えられる。


※詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
妊娠・出産に当たっての適切な栄養・食生活に関する調査(PDF:16140KB)

働く女性のためのヘルスケアブック(見開き)(PDF:14422KB)

働く女性のためのヘルスケアブック(片面)(PDF:14550KB)


本件に関するお問い合わせ
創発戦略センター スペシャリスト 小島 明子
TEL:03-6833-1671  E-mail:kojima.akiko@jri.co.jp
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