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働き方改革の動向と生産性向上の視点

2019年03月22日 太田康尚


 いよいよ2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行される。多くの企業ではすでに対策済みと思われるが、人手不足による多忙な現場と法対応への板挟みから対応に苦慮している企業も多い。
 本稿では、わが国の労働力供給環境と政策動向を背景に小手先の対応ではない本質的な生産性向上の必要性について述べる。

【参考】施行される「働き方改革関連法」の概要
※詳細は、厚生労働省の「働き方改革特設サイト」に記載あり。

(1)時間外労働の上限規制
 時間外労働(残業)の上限は「原則月45時間かつ年360時間」。繁忙期などの特例でも月100時間未満、複数月平均で80時間以内、年720時間までとする。同時に勤務間インターバル制度として前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息を確保すること。
 ※施行 大企業 2019年4月~ 中小企業 2020年4月~
 ※ただし、上限規制の適用が猶予・除外となる事業・業務がある。

(2)年次有給休暇の確実な取得
 労働基準法が改正され、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要がある。
 ※施行 2019年4月~

(3)同一労働同一賃金
 非正規労働者については、正社員との不合理な格差を解消するため「同一労働同一賃金」という考え方を導入。
 ※施行 2020年4月~
 ※中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は2021年4月1日

 これら「働き方改革関連法」と併せて、昨年閣議決定された「高齢社会対策大綱案」において70歳やそれ以降でも活躍できる社会を実現するため、年金受給開始時期を70歳以降でも選択できるよう検討するとしている。現状では企業に65歳までの継続雇用を義務化しているが、さらに70歳まで働くことが一般化する社会の到来が現実味を帯びつつある。

 直近の国勢調査に基づいた将来推計人口によると、わが国の生産年齢人口はこの50年で40%以上(約32百万人)減るとされている(図表1)。
 女性やシニアの社会進出が進んでもこの生産年齢人口の減少分を埋めることは厳しい。近年ではブルーカラーに加えホワイトカラーの分野でも外国人労働者を活用する動きも活性化しているが、その浸透速度は鈍い。
 従って、限られた労働力と労働時間規制などを背景に多様な人材活用を促進することに加え、生産性向上をより一層推進することが企業に求められている。

図1:わが国の生産年齢人口推移


【出所】国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計)」に基づき㈱日本総合研究所により作成。生産年齢人口は15~64歳総人口(出生中位・死亡中位)推計。各年10月1日現在の総人口(日本における外国人を含む).平成27(2015)年は,総務省統計局『平成27年国勢調査 年齢・国籍不詳を按分した人口』。

 多くの企業が「働き方改革」として諸課題に対処しているが、場当たり的な対応に追われる対処療法だけでは成果は限られる。
 よくある事象として、経営企画、人事部、営業など各部門がそれぞれの立場で取り組み、全体の整合性つまり、本来の働き方を全体像として捉えないまま推進してしまうケースがある。この場合、所管部門の権限範囲でぱらぱらと施策が打たれ、結果として中途半端な活動に終始してしまうことがある。残業上限規制をするのは良いが、現場だけで可能な改善活動には限界があり、「何をどうしたら規制を守りつつ実務が回せるのか」が曖昧なままでは問題は解決しない。

 「働き方改革」の目的は、多様な人材を適切に活用しつつ仕事のやり方を見直して組織全体としての生産性を上げることだ。
 必要なのは、まずは理想の働き方の具体的なモデルを組織全体として共有したうえで求められる制度、組織、要員配置、仕事の再定義をすることである。

 例えば、ある担当者が多忙で残業が多く期待する役割遂行に十分な時間が割けていないという実態があるとする。その場合の対処は本来の中核業務を再確認したうえで無駄な業務を排除し、情報システム(事務支援ロボットなど)を活用して自動化することを検討し、体力的制約や育児や介護により時間的制約がある人材などに周辺業務を移管する。
 各種施策により創出した余力を勤務正常化にあて、さらに余力があればより注力すべき付加価値の高い業務にあてる。同時に場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を実現するための勤務や評価の制度なども用意する。
 本来の仕事の在り方を再設計し、各人の能力や人件費に見合った業務の最適配分が実現したときに組織の生産性は向上する。

図2:業務と役割の見直し


【出所】(株)日本総合研究所にて作成


 もし将来の人材・労働力の不足が見込まれ、対応が不十分と感じるのであれば、改めて将来の事業規模に必要な労働力の量と質を推定し、次世代の働き方を具体的にイメージしたうえで必要な取り組みを具体的に定め動き始める必要がある。
以上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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