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介護事業所の認証評価制度の普及に向けたガイドラインの策定に関する調査研究事業

2019年03月25日 福田隆士山崎香織


*本事業は、平成30年度老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業として実施したものです。

1.調査研究の背景・目的
 地域包括ケアシステムの構築を進めていく上での資源面での課題としては、財政的な制約に加え、人的資源の制約が大きくなっている。厚生労働省資料において、2025年には約38万人の介護人材需給ギャップが生じるとの推計が示されており、このギャップを埋めるべく各種取り組みが進められている。人材確保のための取り組みの基本的な方向性としては、離職防止・定着促進、新規参入促進、流出後の再流入の促進が挙げられる。地域医療介護総合確保基金における介護人材確保対策事業メニューとして、これらに対応した取り組みが示されており、各都道府県において基金を活用した展開が図られている。
 基金を活用したメニューの一つに、基盤整備を目的とした「人材育成等に取り組む事業所の認証評価制度実施事業」が位置付けられている。先駆的に取り組みを進めている京都府などでは、認証された事業所とそうではない事業所の従事者の離職率等には一定の差が生じていることが示されており、有効な施策と考えることができる。しかし、基金による各メニューの個別の取り組み状況は都道府県によって差が見られる。現在、全都道府県での実施には至っていないが、厚生労働省は47都道府県での導入を期待しているところであり、より多くの地域で実施されることが望まれている。
 介護事業所の認証評価制度は、実際に離職防止や入職促進に一定の効果があることが示唆されており、事業所の主体的な取り組みを支援するということからも重要な位置付けにあると考えられる。介護人材の確保・定着の推進は最終的には事業所による部分も大きく、事業所の取り組みをいかに促進していくかということが非常に重要なポイントになるといえる。これらを鑑みると、事業所の認証評価制度は介護人材確保の重要な施策の一つであると判断でき、より広範な地域で展開されることが期待される取り組みと位置付けられる。
本調査研究では以下4点を課題と考え、検討を行った。
 ①認証評価制度が広く普及していない要因把握
 ②認証評価制度の標準的なモデル検討
 ③認証評価制度により目指す効果とガイドラインの位置付けの明確化
 ④介護従事者の意向を踏まえた検討推進

 本調査研究では、介護事業所の認証評価制度を各都道府県が導入し、効果的な運用ができるようにするための参考資料として、都道府県担当者向けのガイドラインを整備することを目的とした。
 導入に向けた方法・手法の整理だけではなく、導入することによる期待効果を明確にし、導入の動機づけに資する内容とすること、導入後に成果を導くためのポイントや考え方等についても整理した内容とすることが必要である。これらの必要な情報・データを盛り込むことで有用なガイドラインとすることを企図し、調査研究を推進した。

2.調査方法・進め方
本調査研究は以下の実施内容、進め方で検討を行った。

(1) 検討委員会における検討
 本調査研究を進めるにあたり、各種検討等を円滑かつ効果的なものとするために、介護人材の確保等に関する有識者、実務者、事業者団体等で構成した検討委員会を設置し、各種検討を実施した。検討委員会は全3回の実施とした。

(2) 先行取り組み内容の調査・整理
 介護事業所の認証評価制度および認証事業所の取り組みについて、先行的に展開されている都道府県での事例等を調査し、整理した。公表情報等に基づく調査を実施、基本的な取り組み事項・推進上のポイント、取り組みの相違点等の整理を行い、合わせてベンチマークすべき都道府県を抽出した。一定の取り組みを進めている都道府県についてはヒアリング調査等の対象とした。

(3) 都道府県向け調査の実施
 先行する取り組みの調査結果の整理を踏まえ、先行的に認証評価制度を実施している都道府県、および未導入の都道府県に対するヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査では導入済みの都道府県に対しては、制度導入の背景や効果、現在の進捗、課題等について確認し、未導入の都道府県に対しては未導入の要因等の確認を行った。ヒアリング調査の実施後、より全体的な・実態を把握するためにアンケート調査を実施した。アンケート調査は47都道府県を対象とした。

(4) ガイドライン構成の検討
 都道府県向けの調査結果などから、制度を導入していない要因、背景、課題、導入後の効果を高めるための課題等を整理し、課題解消に資する内容を検討、都道府県向けのガイドラインの構成としてとりまとめた。

(5) ガイドラインのコンテンツ整備
 検討したガイドラインの構成に従い、必要なコンテンツについて、公開情報調査、ヒアリング調査等から作成、整備した。
 
(6) ガイドラインの作成
 検討した構成、整理したコンテンツから、都道府県担当者向けのガイドラインを作成した。ガイドラインは本編に加え、概要版についても作成した。ガイドラインにおいては、都道府県担当者目線だけではなく、事業者や従事者から想定される効果等についても盛り込むこととし、より有用性を高めること等に配慮した。

3.認証評価制度の導入・運用に関する現状把握を踏まえた課題の整理
 本調査研究では、認証評価制度の導入・運用に係る各都道府県の実態を把握するために、都道府県担当者向けのヒアリング調査、アンケート調査を実施した。調査結果を踏まえ、認証評価制度の導入・運用に係る課題を以下のように整理した。

【認証評価制度の普及・導入に向けた課題】
●費用対効果に対する懸念
・効果・メリットが不明瞭という指摘への対応
・投入する資金、人的資源が大きく、投入資源に対する効果の想定への対応
●他の施策との棲み分け、資源の割り振りの問題
・他の施策を優先している場合の認証評価制度の位置付けの整理
・限られた人的資源の中で認証評価制度を進める体制が構築できないという問題への対応
●事業者の周知・理解促進
・事業者側からの要望がないことへの対応
・事業所側の負担軽減の考慮

【認証評価制度の効果的運用に向けた課題】
●事業者の積極的な参加を促す仕組み
・事業者にとっての効果・メリットの明確化、動機づけの方法の整理
・事業者の理解促進・認知度向上のための方向性
・従事者・求職者への理解促進・認知度向上のための方向性
●推進体制・方法の明確化
・資源が限られている中での推進体制、推進手法の整理
・外部リソースの効果的活用(費用面も考慮しながら)
●効果検証の考え方の整理
・何を持って認証評価制度の効果、成果と捉えるかの整理
・複数の施策を進めている中で、認証評価制度の成果をいかに把握するかの整理

4.調査結果を踏まえた考察
 調査結果の整理を踏まえ、認証評価制度の導入促進および効果的な運用に向けては、以下の点が重要になると考えられる。

・認証評価制度は多様な人材確保策の基盤となる取り組みであることの明示
・事業者・求職者にとってのメリット明確化および周知徹底
・共通的に実施する範囲と地域性を考慮すべき内容の整理
・推進方法および運営上のポイントの例示
・具体的な認証事業者の事例の提示

 以上で整理した考え方に対応すべく、ガイドラインは以下の構成とした。また、ガイドラインに関しては、概要を把握するための概要版も作成した。

【ガイドラインの構成】
1.本ガイドラインについて
2.基本的な考え方
3.認証評価制度の運営のポイント
4.認証評価制度を活用した介護事業者の取り組み事例

 本調査研究を通じて作成したガイドラインは、都道府県担当者に向けたものであり、本ガイドラインを参考に認証評価制度が一層普及することを期待する。本調査研究においては、都道府県担当者向けのガイドラインを作成したが、制度の一層の効果創出のためには、事業者や求職者へのさらなる周知・理解促進が重要となる。
 また、作成したガイドラインは現状を考慮したものであり、今後認証評価制度が普及した場合、さらに効果を高めるための改定なども必要となるであろう。一層の普及促進、効果創出に向けては、都道府県、事業者、求職者への理解促進の充実、定期的なフォローアップ、必要に応じた見直しといった継続的かつ、多様なプレーヤーの協働による取り組みが不可欠である。


※本調査研究事業の詳細につきましては、下記の報告書本文をご参照ください。
【報告書本編】
【別冊資料1 人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度の運営にかかるガイドライン】
【別冊資料2 「介護事業所の認証評価制度」運営のポイント(ガイドライン概要版)】

本件に関するお問い合わせ
リサーチ・コンサルティング部門 シニアマネジャー 福田隆士
TEL: 03-6833-5201   E-mail: fukuda.t@jri.co.jp
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