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気候変動を取り巻く「行く年来る年」

2019年01月16日 新美陽大


 2019年、新たな年を迎えた。いま一度「行く年」の出来事を総括し、「来る年」に考えを巡らせてみよう。

 「行く年」を振り返れば、日本国内の自然災害の被害が記憶に新しい。12月12日、恒例の日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」が発表され、2018年は「災」が第1位となった。北海道・大阪・島根での地震に加えて、西日本豪雨や記録的猛暑など、日本各地で発生した自然災害による被害が、いまも物理的のみならず、人々の心理的にも大きく爪痕を残している。

 国際的には、自然災害拡大の一因である気候変動に関して、取り組みが進んだのも2018年だった。12月上旬、ポーランドで開催されたCOP24では、温室効果ガス排出抑制のための国際的枠組みである「パリ協定」のルールが合意された。各国の思惑が錯綜する中、議論は難航したものの、最終日には大枠合意となり、国際社会の分断という最悪の事態は回避された。もっとも、詳細ルールの合意等、引き続き粘り強い国際交渉が残されている状況には変わりない。

 気候変動に対する取り組みは、温室効果ガスの排出を抑制・削減する「緩和」策と、気候変動による影響に対応する「適応」策とに大別される。パリ協定が一定の道筋を付けた格好となっている緩和策と併せて、今後はいかに適応策の検討を進めるか重要性が増している。

 わが国では「気候変動適応法」が昨年6月に施行、12月1日に発効されるに至った。また国内の適応策への取り組みの中心的機関として、同日、国立環境研究所内に設立されたのが「気候変動適応センター(CCCA)」である。今後、同センターが中核となって、国内における気候変動適応策の検討が一層進展することを期待したい。

 「来る年」では、今年6月28・29日、日本が初の議長国となり大阪で開催されるG20サミットに注目したい。G20から要請を受けFSB(金融安定理事会)が設置した「TCFD(気候関連財務ディスクロージャータスクフォース)」は、「あらゆる公的機関・民間企業は、将来起こり得る気候変動による影響について分析し、その評価を対外的に公表すべきである」とした提言を2017年に報告書として取りまとめている。国内外では評価手法の開発が進められているが、今年のG20サミットを契機に先駆的な企業が評価結果を公表し、いわば「TCFD元年」となる可能性もある。

 TCFDや、今やすっかりメジャーとなったSDGsの取り組みが進むことは、適応策の検討にも直結する。さらに適応策への取り組みを具体的な事業フェーズに進めるためには、資金調達の多様化が重要だ。そのためには、日本が次期事務総長の候補擁立を表明したGCF(緑の気候資金)など、稼働中の資金スキームの活用に加え、用途を適応策に特化した「レジリエンスボンド」の発行など、新たな金融手法の開発も有用であろう。

 11月にチリで開催されるCOP25、第6次報告書の検討が進むIPCCの動きも注視しつつ、「災」の年が繰り返されることのないよう、我々も思索を一層深めていきたい。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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