コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

日本総研ニュースレター

超高齢社会において幸福な最期を迎えるために

2018年09月01日 齊木乃里子


超高齢社会に必要な看取り力
 わが国の高齢化率(全人口に対する65歳以上人口の割合)は、団塊の世代が後期高齢者となる2025年には30%に到達するとみられ、その後も増大が続く(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(平成29年))。社会全体の構造は大きく変わることが予想され、2016年は生産年齢人口4.5人で後期高齢者1人を支えていたのが、2025年には3.3人で支える計算になる。
 65歳以上の世帯を見ると、単独世帯(独居)、夫婦のみ世帯を合わせて2016年は66.1%であったが、2025年には67.9%に上るとされ、75歳以上の世帯に絞ると70%に届く。つまり多くの高齢家庭では、この先要介護状態になったとしても、いわゆる老々介護に追い込まれることになる。
 内閣府の「高齢者の健康に関する意識調査」(2012年)では、死に場所として自宅を希望する人は55歳以上全体で半数を超え、75歳以上では56.3%にも上る。一方で、2000年以降一貫して死に場所のトップは病院であり、80%弱を占める。家族にも、地域にも「看取り力」があるとはいえないのが現状である。

自宅での暮らしを支える在宅医療サービス
 厚生労働省「終末期医療に関する調査」(2008年)では、自宅で最期を迎える場合のハードルとして、家族への負担がトップに挙がるが、「症状が急変した時の不安」(54.1%)、「往診可能な医師がいない」(31.7%)など、医療体制に対する不安も大きい。一方、前述の内閣府調査では、死期に際して「延命治療を行わず自然に任せてほしい」との回答が91.1%に上り、2002年に実施した同様の調査と比較して10%増加した。
 そのような中、在宅での看取りを支援する医療機関も出てきている。医療法人社団悠翔会では、患者の「死ぬまでをどう生きるか」を尊重する医療として、病気を積極的に治療することよりも、むしろ生活を続けるためのケアを重視すること、そのために医師だけではなく多職種で取り組むこと、そしてどこまで治療するかを家族ととことん話し合うことなどに主眼を置いているという。現在では、運営する11拠点の総患者数は3,500人、年間訪問件数はのべ10万件を超える、首都圏最大級の在宅医療ネットワークとなっている。
 また、一般社団法人「次世代在宅医療プラットフォーム」を通じて、在宅医療の普及の障壁となっている「24時間対応」を、「医師個人の義務」から「地域のインフラ(共有機能)」として実現させようと取り組んでいる。具体的には、日中診療する主治医と、休日・夜間対応の副主治医に分け、医師同士の情報共有や対応方法を標準化することで、チームとして在宅医療を機能させることを目指している。

地域で生き、地域の中で最期を迎える
 一方、終末期を迎える自宅=住まいの観点で、サービス付高齢者住宅(=賃貸住宅)でありながら、積極的に看取りを推進しているのが、東京・千葉・神奈川で「銀木犀」の名前で11棟を運営するシルバーウッドである。特定施設入居者生活介護における平均看取り率が30%ほどといわれるなか、延命のためだけの点滴はしない銀木犀の看取り率は70%を超える。
 現在、銀木犀では「“仕事付き”サービス付き高齢者住宅」という新しい取り組みに着手している。2019年4月にオープン予定のこの住宅では、敷地内に飲食店を展開し、入居者には就労機会を提供する。認知症や要介護状態を自然に受け止め、感謝したりされたりしながら地域の中で当たり前に生きていけるようにするのが狙いとなっている。

 これらの事例は、今後の日本の高齢者の、「自分らしい暮らし」を後押しする「点」の取り組みである。今後、この動きを他の事業者にも広げるためには、医療・介護保険における政策的な後押しが必要であると共に、「幸福な最期」を支える専門職人材の育成、地域での支えあいの仕組みづくり等が求められる。
 一方で、サービスを開発・整備するためには、「自分らしい暮らし」の具体的なニーズについても蓄積する必要がある。これから高齢者となる私たちも「自分はどうしたいのか」を考え、最期に関わる家族や知人、医療関係者、他の民間サービス提供者といった周囲に発信・共有していくことが求められているのである。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ