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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第8回)〜誰がファーストマイルを制するのか〜
2018年11月13日 井上岳一
自動運転の適用ケースとして「ラストマイル」に期待が集まっている。ラストマイルとは、公共交通のその先、駅・バス停から自宅等の目的地までのことを意味する。1マイル=約1.6kmだが、正確な距離は問われない。数百mのこともあるし、数キロのこともある。他に交通手段がなく、徒歩か自転車かマイカーに頼るほかない道のりのことをラストマイルは意味している。血管に例えれば、動脈や静脈が公共交通で、その先の毛細血管網がラストマイルというイメージだ。
もっともラストマイルという物言いは、随分と事業者寄りだ。生活者を起点にして、ファーストマイルと呼ぶほうが正しい。このファーストマイル(自宅からバス停・駅まで)が、公共交通の使い勝手を決める。ファーストマイルに心理的・肉体的な負担を感じると、当然、公共交通の使い勝手は下がる。徒歩なり自転車なりで移動して、そこから公共交通に乗り換えてという手間をかけるなら、最初からマイカーのほうが良いということになってしまうからだ。だから都心部以外ではマイカー依存が進んでしまった。
国土交通省は、バス停から500m以上、鉄道駅から1km以上離れている場所を「公共交通空白地」と名付け、その面積を可住地面積の約30%、人口で5.8%と公表している(平成23年度調査)。公共交通の人口カバー率が9割を超えているというこの調査結果は意外に思える。郊外や地方では完全なマイカー依存社会になっているという現実とあまりにかけ離れている。マイカー依存が最も進んでいるのは群馬県だが、群馬県では日常的な移動の8割をマイカーが担い、4人に1人が100m以下の移動にもクルマを使っている。公共交通による移動はわずか2.8%(鉄道2.5%、バス0.3%)に過ぎない(「群馬県交通まちづくり戦略」平成30年3月)。
マイカーの強みは、ファーストマイル問題がないことだ。歩く必要はなく、暑さや寒さや風雨にも影響されないマイカーは、駐車場や渋滞や事故の問題さえなければ、最強の移動手段である。群馬県人がそうであるように、マイカーに慣れてしまうと、人は100m以下の移動にもマイカーを使うようになる。
公共交通がマイカーに負けずに使われるようになるためには、公共交通のファーストマイル問題を何とかする必要がある。その時に有効な打ち手となるのが、自動運転車を使ったファーストマイルの移動サポートだ。運転手が不要になる自動運転は、運行経費が既存の公共交通に比べてずっと安くなる。だから毛細血管のように交通網を張り巡らせることも理論的には可能だ。ドア・ツー・ドアのサービスができるようになるには、まだ時間がかかりそうだが、定ルート運行でも、既存バス停よりはずっと自宅の近くに乗降ポイントを作ることはできる。そうやって自宅のそばまで利用者を拾いに行き、幹線を走る既存のバスにシームレスに乗り継げるようにすれば、生活者がファーストマイルに感じる心理的肉体的負担を大幅に減少させることができるだろう。
ファーストマイルは移動の入り口だ。入り口を制するものが絶対的に有利になることは、GoogleやAppleなどITのプラットフォーマー達が証明してきたことだ。モビリティの市場においても、ファーストマイルを制するものが大きな力を持つようになるのだろう。20世紀はマイカーの時代だったが、シェアリングや自動運転の登場により、「所有から利用へ」の流れが加速している。自動車会社各社もサービス化の流れに棹を差し、マイカー最強の時代は終わりつつある。これに伴い、マイカーが握ってきたファーストマイルのポジションが空き始めた。この空き始めたポジションを誰がどのような形で制するのか。競争は既に始まっている。
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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。