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アジア・マンスリー 2018年11月号

転換点を迎えた韓国の輸出主導型成長

2018年10月25日 成瀬道紀


設備稼働率の低迷など、韓国の製造業が苦境に陥っている。背景には中国との競合激化で輸出が低迷していることがある。財閥主導の一点集中突破モデルによる輸出主導型成長は、転換点に差し掛かっている。

■低下する設備稼動率
韓国の製造業の低迷が鮮明になってきた。韓国製造業の苦境を最も端的に示しているのが設備稼動率の落ち込みである。2010年まで80%前後を維持してきた設備稼働率は、2011年から下落に転じ、足元では70%近くまで落ち込んでいる。アジア通貨危機やリーマン・ショックといった景気後退期にこれを下回る急低下はあったものの、景気回復局面でここまで低下するのは異例である。業種別にみると、電子部品、通信機器、家電などのエレクトロニクス関連製品で大きく落ち込んでいる。

こうした稼働率低下の主因は輸出の減速である。輸出数量をみると、リーマン・ショック前後まで、振れを伴いつつも平均して年率+10%を上回る高い伸び率で推移してきた。しかし、2010年代前半に、輸出数量の伸び率は大きく低下した。これに対して生産力の抑制も行われたものの、輸出の増勢鈍化に見合うほどの抑制には至らなかったとみられる。この結果、慢性的な過剰設備状態に陥って、設備稼働率の急低下が続くことになった。こうした動きから、予想外の輸出減速に韓国の製造業の対応が後手に回った様子が窺える。

■輸出減速の背景
 輸出減速の背景として、中国がエレクトロニクス生産に力を入れ始めたため、韓中の競合が激化したことが指摘できる。実際に、2010年代に入って中国は電気機器・部品の輸出を急拡大させている。例えば、スマートフォンの分野では、低価格品を武器に近年、中国企業がアジア新興国でシェアを大きく伸ばした。また、中国によるエレクトロニクスの生産強化は中国の輸入減という形でも現れている。具体的には、従来ほとんどを韓国などからの輸入に頼っていたテレビ・スマートフォン向けの液晶パネルを中国が内製化するようになったため、韓国から中国向けの液晶パネルの輸出額が大幅に減少している。このように、これまで韓国が強みを持っていたエレクトロニクス分野において、中国企業のプレゼンスが高まってきたことが、韓国製造業の輸出鈍化、設備稼動率低迷の主因であると推定される。

■中国の製造業高度化
 中国がエレクトロニクス分野に力を入れているのは、成長モデルを転換させることが狙いである。中国では、沿海部を中心に賃金が上昇し、他のアジア諸国に比べても割高感が目立つようになってきた。そのため、リーディング産業を労働集約型から技術・資本集約型へシフトしていく必要に迫られている。そこでターゲットとなったのが、液晶パネルや半導体などを中心としたエレクトロニクス分野である。その理由は、中国企業が勝機を見出せる3つの条件が揃っていたことがあげられる。

第1は、技術的な参入障壁が相対的に低いことである。液晶パネルや半導体は製造過程がブラックボックスになっている部分が少ないため、製造装置や部材を揃えることができれば、立ち上げが比較的容易で、後発組でも参入しやすいという特徴がある。

第2は、グローバル市場が巨大であることである。中国の製造業はGDPの約3割を占めており、他国よりもシェアが大きくなっている。そのため、産業構造を高度化する際にも、ある程度市場規模が大きい分野を狙っていく必要がある。この点、全世界で300兆円の需要があるとされるエレクトロニクス分野は、市場として十分な規模を持っている。
第3は、規模の経済が働くことである。中国の製造業が得意とするのは、豊富な資金力を動員して、大規模投資と大量生産を行うというビジネスモデルである。液晶パネルや半導体は典型的な装置産業であるため、中国企業の強みを生かすことが可能になる。

 これらは、かつて韓国が日本を追い上げ、追い越したのと同じ構図である。韓国は、財閥企業を中心にエレクトロニクス分野に集中的に投資し、先行する日本などからシェアを奪って高い成長を成し遂げた。しかし、2010年代に入り、豊富な資金力を持つ中国がこれらの産業に巨額の投資を実行して韓国を追い上げている。かつて韓国に有利に働いた参入の諸条件は、後発の中国にも同様に有利に働いている。2000年代まで奏功していた韓国の一点集中突破モデルが、韓国を上回る資金力を持つ競合相手である中国の登場で、2010年代に入り完全に裏目に出ている状況である。

■今後の展望
今後を展望しても、韓中の競合は激しさを増していくと考えられる。中国の産業高度化は今まさに進行中で、政府の補助金も利用するなどしてエレクトロニクス関連の新工場を次々と建設している。加えて、韓国のエレクトロニクス製品の輸出先は過半が中国である。中国政府の後押しがあるだけに、韓国製品は中国市場で厳しい戦いを強いられる可能性が高い。さらに、中国以外のグローバル市場でも、母国市場で力をつけた中国企業との熾烈な価格競争が繰り広げられることが予想される。
 以上のように、中国企業の台頭で、韓国の輸出主導型成長モデルは岐路に立たされている。韓国経済が現下の苦境を克服していくためには、エレクトロニクスをはじめとする製造業で中国の追随を許さない高付加価値分野にシフトしていけるかどうかが鍵を握る。
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