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【次世代農業】
次世代農業の“芽” 第12回 人口減少下でも改善するわが国農業の付加価値

2018年10月10日 菊地秀朗


 わが国農業の売上額(生産額)から原材料等のコスト(中間投入)を除いた、付加価値の合計である農業名目GDPは、2015年から2年連続で改善しています(図表1)。過去30年にわたって続いた縮小トレンドに歯止めがかかり、持ち直しに転じた背景は何でしょうか。今回の次世代農業コラムでは、マクロ経済データから、わが国農業の現状を俯瞰し、成長の兆しを浮き彫りにしたいと思います。

 わが国の農業名目GDPが改善した主因はマージンの改善です。この背景には、①新規需要の開拓を主因とした販売価格の上昇と、②労働生産性の改善等を受けた生産コストの低下、の2点があります。

 まず、販売価格についてみてみましょう。農林水産省が公表している農業物価統計で販売価格の推移をみると、2009年を底にやや持ち直し、2015年以降大きく上昇しています(図表2)。
図表1


 販売価格上昇の背景には、国産農産品への需要の増加を受けた生産者の価格交渉力の改善があります。具体的には、第1に、輸出の増加があります。地理的に近いアジアの所得拡大、世界的な日本食ブーム、ブランド品種育成の奏功などにより、わが国農産物の輸出は大きく増加しており、2000年頃まで2%に満たなかった輸出依存度(生産額に占める輸出額の割合)は、足許で4%超まで上昇しています。

 輸出の動向については、本シリーズ第4回「質・量ともに改善する飲食料品輸出」、および蜂屋勝弘「農産物輸出の一段の拡大に向けて」(日本総合研究所 リサーチフォーカス ≪「次世代の国づくり」農業シリーズ No.1≫2018年5月18日)もご参照ください。

 第2に、国内市場においても、国産農産物の差別化により、需要がやや持ち直しています。たとえば、国内消費市場全体が伸び悩むなかでも、外食・中食の需要が拡大しており、こうした分野で安心・安全な国産農産物へのニーズが高まっています。

 こうした新規需要の開拓が奏功したことで、販売価格引き下げや圃場廃棄を回避し、生産に占める付加価値比率を高めることが可能になってきました。

 次に、生産コストについてみてみましょう。同様に、農業物価統計で生産コストにの推移をみると、2000年代後半からの上昇が、2014年以降は一服しています(前掲図表2)。背景には、①肥料原料、飼料などの国際商品市況で、価格高騰が一服したこと、②2015年以降、円安進行が一巡したこと、③原油価格の下落に伴い光熱動力費が下落したこと、などがあります。

 また、労働生産性(1人当たり農業実質GDP)の改善も、生産コストの抑制に寄与しています。労働生産性改善の背景には、農地集約の進展があります。家族経営が多く、規模の拡大が遅れてきたわが国農業ですが、政府の農地集約に向けた政策が徐々に奏功してきました。実際、2000年代後半以降、1人当たり農地面積の拡大は加速しており、2017年は2.3haと、2005年からおよそ7割拡大しています。

 以上のように、販売価格の上昇と、生産コストの低減が実現した結果、わが国農業のマージンは大きく改善しています。先の農業物価指数で販売価格と仕入れ価格の比である農業交易条件指数をみても、2015年以降は、大きく改善しています。

 もっとも、農業人口の減少が引き続き生産の重石として働くことが懸念されます。弊社の推計では、農業人口は2035年には100万人と、2017年の194万人(家族経営182万人、組織経営13万人)からほぼ半減すると見込まれます。年齢構成も、一段と高齢化が進行する見通しです。

 このため、農業生産を維持・拡大していくためには、新規参入の促進等で農業人口の減少に少しでも歯止めをかけるとともに、先にみたマージン改善の動きを一段と加速させていくことが不可欠となります。すなわち、①マーケティングやブランディングの強化などを通じた、さらなる新規需要の開拓、②生産性の改善に向けた一段の農地集約や、③IT・ロボットなど革新的技術を活用する設備投資、などが挙げられます。農業従事者の農外所得を拡大させる、6次産業化の促進も期待されます。こうした対策を積み上げていくことで、法人を含め農業従事者の新規参入を促していくことが求められます。

 本稿は、「改善するわが国農業の付加価値 ― 農業人口半減時代に備え一段の生産性向上が不可欠 ― ≪「次世代の国づくり」農業シリーズ No.2≫」(日本総合研究所 リサーチフォーカス 2018年8月7日)を基に執筆しています。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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