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CSRを巡る動き:外国人労働者の労働環境改善に向けた期待

2018年09月03日 ESGリサーチセンター


 2018年6月28日、米国国務省が毎年作成している「人身売買報告書」が発表されました。本報告書は、米国国務省が国内法である人身売買被害者保護法(TVPA)に準拠して各国の取組状況を4段階で評価するものです。言い換えれば、人身売買に類する実態と取組を評価し、各国を4階層に格付けするのですが、日本は、今回初めて最良の第一階層に位置づけられました。

 報告書の発表後、国内での報道では、「JK(女子高生)ビジネスへの対応が評価されて昇格」、「北朝鮮や中国が最低ランク」といった内容のものが目立ちましたが、報告書の中で技能実習制度についても明確な言及があった点は注目すべきでしょう。具体的な昇格理由のひとつとして「技能実習制度に対する規制および新たな監督体制の運用」を評価したとしています。他方で「技能実習生を借金で束縛するような過剰な金銭徴収を阻止する規定があるものの、十分に執行できていない」、「契約機関での搾取的な環境下から逃れてきた技能実習生に対して、被害者であるかどうかの確認審査を行わず、保護・支援サービスへとつなげずに、拘束、告発、場合によっては強制送還の対象としている」と批判もされています。(*1)

 技能実習制度については、本報告書が2009年から言及を始めたほか、2011年のILO(国際労働機関)総会や2017年11月の国連人権理事会からの勧告等で、繰り返し批判の対象になってきました。今回の米国人身売買報告書で取組が進んだと評価された点は、小さな前進として受け止めてよいと考えますが、実態としては依然として大きな問題が残っていることも事実です。

 厚労省の統計によれば、2014年から2016年度の3年間で22名の技能実習生が労災で亡くなっており、日本の全国平均の2倍以上の比率となっていることが、今年1月に大きく報道されました。また、平成29年度の労働基準監督機関による監査では、監査指導を実施した実習実施者5,966件の70.8%に当たる4,226件で労働基準関係法令違反が確認されたといいます。主な違反事項としては、違法残業等の労働時間に関するもの(26.2%)、使用する機械に対して講ずべき処置、などの安全基準に関するもの(19.7%)、割増賃金の不払い(15.8%)といった基本的なところから逸脱する問題が存在することが明らかになりました。違反が認められた事業所では実習生に対してだけではなく日本人に対する労働問題も発生しており、日本の労働環境における問題点が技能実習制度自体の問題と重なりあい、より深刻度を増して表出している状況といえるでしょう。

 足元で、日本政府は外国人に対する新規在留資格創設に向けた調整を始めたと報じられています。2019年4月の運用開始を目指した本資格は、少子高齢化や深刻な人手不足を背景に数十万人の外国人を受け入れること、それに向けて就労の偽装を迅速に確認できる体制を整え、外国人の就労や生活に関する相談窓口を設置することなどを内容としているようです。ただ、こうした制度が始まったとしても、現存する人権問題をないがしろにすることはできません。行政、民間共に働き方改革への関心が盛り上がる中、働き方改革の対象を自国の労働者のみでなく、外国人労働者を含めた労働環境全体に広げていくべきことは当然でしょう。国連の採択した持続可能な開発目標(SDGs)にも、目標8に「すべての労働者の権利を保護し、安全・安心な労働環境を促進する」というターゲットがありますが、日本企業においては、自社やサプライチェーンで働く外国人労働者の存在と結び付けてこのターゲット達成への貢献を考えていくことが必須でしょう。技能実習制度に対する国際世論、国内での働き方改革、SDGs達成に向けた企業活動などが相まって、日本における外国人の労働環境問題に解決への風穴があくことを期待しています。

(*1)(出所)国務省人身取引監視対策部 「2018年人身取引報告書(仮訳)」
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