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アジア・マンスリー 2018年8月号

AIIBの現状とわが国の関わり方

2018年07月23日 佐野淳也


AIIBは当初の懸念と異なり、中国の影響力を感じさせない堅実な運営を続けている。日本としては、アジアでのプレゼンスの向上やビジネスチャンスの拡大に向けて、AIIB加盟が検討課題となり得よう。

■高まるAIIBへの期待
膨大なインフラ資金需要を満たす調達ルートとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に対する期待が高まっている。例えば、6月下旬に開催されたAIIBの年次総会において、インドのモディ首相は、「2020年に年400億ドル、2025年に年1,000億ドルに融資規模を拡大し、アジアにおけるインフラ資金需要の急拡大に対応してほしい」と発言した。AIIB加盟国・地域数をみると、2017年以降、アジアにとどまらず、アフリカや南米、大洋州などからの加盟も相次いでいる。アジア開発銀行(ADB)の加盟国・地域数(2017年末時点で67)を業務開始から約1年で上回ったことは、AIIBに対する各国の強い期待の表れといえる。

一方、日本は、中国が提唱する一帯一路の実現に恣意的に活用されるのではとの警戒感から、AIIBに対して一定の距離を置いてきた。しかし、最近の日中関係の改善を背景に、一帯一路構想に呼応して日中の企業が第3国でどう協力するのかについての検討が開始されるなど、経済協力関係が深まる兆しがみられる。こうした状況の下で、中国主導で発足したAIIBの現状について改めて整理したい。

■業務運営では慎重姿勢を堅持
まず、2018年6月末までの承認案件から、AIIBによる投融資の主な特徴として、以下の二つが挙げられる。

第1に、投融資に対して慎重な態度を保っていることである。2016年6月の初承認から現在までの2年間にAIIBが承認したプロジェクトは29件、投融資総額は約54億ドルと、1年間の融資・援助額が約300億ドルに達するアジア開発銀行(ADB)と比べれば小規模にとどまっている。この背景には、ノウハウ不足など、体制が十分に整っていなかったことを指摘できるが、状況が改善された現在においても、業務拡大に対して慎重な姿勢で臨んでいるといえよう。

29件の承認プロジェクトのうち、単独融資・出資の案件は少ない。AIIBは多くの案件で、ADBや世界銀行(グループ内別組織も含む)、欧州復興開発銀行といった他の国際開発金融機関(MDB)との協調融資を選択し、融資額も総じて他のMDBと同額以下に抑えている。この背景には、プロジェクト融資に対するノウハウの蓄積を優先させたいという判断とともに、貸し倒れを極力回避したいという安全志向があるものと考えられる。

第2に、インド向けに重点が置かれていることである。他の国向けが各1~4件であるのに対し、インド向けは7件と最も多い。金額でみると、インドは14.1億ドルで、全体の4分の1を占める。もともとインドは、中国の一帯一路構想に対する拒絶反応が強かった。こうした事実から、中国に協力的か否かにかかわらず、プロジェクトや返済能力を客観的に評価して融資するスタンスがうかがえる。承認の際、環境面への影響等を考慮していることも、公表資料から確認できる。

組織運営をみると、経営トップの金立群総裁は中国政府の元高官だが、副総裁5人はすべて中国以外の専門家や実務経験者であるなど、中国が要職を独占している訳ではない。また、AIIBはアジアのインフラ整備に貢献するが、あくまで国際的な機関であることを強調し、中国の一帯一路構想を推進する機関ではないかという懸念の払しょくにも努めている。MDBとの関係では、協調融資の実施や協力に関する覚書の締結など、協力を深めている。これらの要因から、AIIBに対して当初持たれていた懸念は総じて薄れる方向にある。

その結果、客観的な評価も高まりつつある。AIIBに対しては、国際的な格付会社から信用格付を得られないため、膨大なインフラ資金需要に応えきれないという指摘が設立以降なされてきた。しかし、2017年入り後、主要格付会社3社から最上位の信用格付を相次いで獲得し、国際金融市場での資金調達が可能になった。

■中国はAIIBの活動を静観
中国も無理に影響力を行使しようとはせず、AIIBの慎重な融資姿勢を静観している。2期目に入った習近平政権は、外交の軸足を国際協調路線に移し、各国からの支持を増やすことで、米国に代わる世界のリーダーを目指す国家戦略を掲げた。AIIBへの過度な介入は、国際社会での信用低下につながりかねないという判断がある模様である。したがって、中国はAIIBの慎重な融資態度、他のMDBとの関係強化などを今後も黙認する可能性が高い。

このような状況の下、AIIBの堅実な業務運営を支援する観点から、日本としては同行への加盟も検討課題となり得よう。AIIBで最重要議案を採択するためには議決権75%超の賛成が必要であるが、現在、拒否権を有しているのは中国だけである。これまで中国はAIIBの運営をめぐり独善的な行動をとっている訳ではないものの、将来的なリスクも考慮して、日本の加盟によって、その拒否権を無効化することには意義があると考えられる。

また、日本のAIIBへの加盟は、アジアでのプレゼンス向上に資すると期待される。ビジネスチャンスの拡大にもつながるとみられるため、日本企業もメリットを享受できよう。発足当初の主な懸念が払しょくされてきたことを踏まえると、AIIBの位置付けおよび役割を再評価し、加盟の可能性を検討することは、わが国として考慮すべき選択肢といえる。
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