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グローバル経営時代のグループ・ガバナンス ~「阿吽の呼吸」から「形式知」への転換が急務~

2018年04月01日 山田英司


企業のコーポレートガバナンス・コード対応は進む
 2015年に公表されたコーポレートガバナンス・コードは、「執行」と「監督」の分離や社外取締役を通じた外部性の強化という観点からまとめられており、取締役会のあり方や社外取締役の位置付けの見直しなどについて、上場企業が真正面から向き合う良い機会となった。多くの企業は従前からの課題であったコーポレートガバナンスに対する問題意識をさらに高く有すようになり、実際の取り組みも進めている。複数の独立社外取締役の選任や、ガバナンス体制を支えるスタッフ機能の充実が図られてきていることなどはその証左であり、ガバナンス改革はさらなるレベルアップに向けた動きが加速しているといえよう。

ガバナンス改革における2つの視点
 ガバナンス改革をさらに進めることについては、筆者は二つの視点があると考える。
 第一点目であるが、ガバナンスをステークホルダーへの説明責任と捉えた場合、このステークホルダーを幅広に捉える、いわゆる「広がり=横」の視点である。これまでのガバナンス改革におけるステークホルダーとは、企業と直接的な関わりを持つ株主や債権者を指していたが、近年では範囲を拡大させ、消費者や地域コミュニティ、さらには社会そのものまで含めるようになってきている。その視点から考えると、ガバナンスはESG、さらにはSDGsへの展開へと結びつく。
 第二点目は、近年の企業経営においてグローバル化・多角化が進んだ結果、中核企業のガバナンスだけでは不十分であり、グループ企業にまで踏み込んで対応すべきという、いわゆる「深さ=タテ」の視点が必要になってきたことである。経済産業省が主催するCGS研究会においても、この「グループ・ガバナンス」の視点が重点テーマに取り上げられるなど、企業集団としてどのようにガバナンスを確立すべきかについての関心が急速に高まりつつある。

「阿吽の呼吸」に頼る「グループ・ガバナンス」の限界
 「グループ・ガバナンス」を考えるにあたっては、グループ経営そのものにまで踏み込んで考える必要がある。もちろん、日本企業においてもグループ経営への展開は進んでいるものの、依然として日本企業のグループ経営管理の基本思想は、自社を分社して設立したグループ会社を管理する、いわゆる分社型のグループ企業を念頭に置いたものである。分社型の場合、グループ企業はもともと同じ組織であったため、経営思想や価値観、行動様式については共通しており、その結果として組織運営は「暗黙知」がベースとなっている点に特徴がある。実際に、グループ経営管理の多くは詳細を定めず、組織の経験や慣例に基づいており、いわゆる「阿吽の呼吸」での運営がなされていることが多い。
 一方で、近年の日本企業においては、持株会社化など、さらなるグループ会社への権限委譲を指向すると同時にM&Aによるグループへの取り込み、グローバル展開による現地法人の設立など分社型でないケースも増加し、結果として従来の「暗黙知」では通じない状況に直面している。
 例えば、現地法人における現地採用幹部や、M&Aで取得した企業の幹部などに対しては、「阿吽の呼吸」が通じないため、明確に方針や行動基準を定めて共有する必要がある。すなわち、「形式知」への転換が求められている。
 実務的には、グループ会社の特性に応じた権限委譲とモニタリングシステム、さらには幹部の任免システムなどを明文化して運用することである。「グループ・ガバナンス」を確立するためには、これらの経営システムの再整備と明文化により、「阿吽の呼吸」から脱却することが急務なのである。

真の「ガバナンス」構築に向けて
 日本企業が、コーポレートガバナンス・コードへの対応などによって、主に中核会社を中心としたガバナンス改革に取り組んできたことは確かである。しかし一方で、M&Aで急成長した企業のほか、ガバナンスの優等生といわれた企業においても、グループ会社に端を発する深刻なガバナンス問題が発生していることは事実である。
 これらを考えても、今後において、グループ全体に網をかけた明示的な「グループ・ガバナンス」への取り組みを進めていくこと、それこそが真の「ガバナンス」を実現するための道筋であると考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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