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アジア・マンスリー 2018年7月号

2018~19年の中国経済見通し

2018年06月20日 関辰一


中国経済は、一部で弱い動きがみられるものの、堅調を保っている。今後、民間需要に支えられて高めの成長を維持する見通しであるが、製造業活動への逆風には注意が必要である。

■3つの分野で弱い動き
2017年秋の党大会後に中国経済は減速するとの見方が優勢であったが、その後も実質GDPが高めの伸びを維持するなど、景気は大方の予想以上に堅調を保っている。IMFも今年4月に2018年の成長率見通しを0.1%ポイント引き上げて6.6%に修正するなど、徐々に楽観的な見方が広がっている。その一方で、足元では弱い動きも散見されるようになった。

足元の弱い動きは、主に3つの分野に現れている。

第1に、耐久消費財である。昨年末に小型車に対する減税措置が終了したため、4月の自動車販売台数は年率2,900万台(日本総研による季調値)と、昨年ピークを1割下回る水準に落ち込んでいる。また、スマートフォンの普及一巡を背景に、4月の国内向け携帯電話出荷台数も前年同月比▲16.7%の大幅減となった。

第2に、政府の規制強化により、一部の固定資産投資が失速している。昨年から政府が環境規制に本腰を入れたため、民間鉄鋼メーカーなどの設備投資が減少に転じた。また、ここ数年ブームとなっていたPPP(官民連携)の仕組みを使った地方のインフラ投資に対しても、抑制姿勢を強めている。

第3に、輸出の減速である。中期的な趨勢でみれば大きく落ち込んでいるわけではないが、昨年の伸びが急ピッチだったため、足元の輸出は増勢鈍化の兆しがみられるようになった。

■内需が景気を下支え
もっとも、こうした弱めの動きは一部にとどまっており、景気を大きく下押しするほどのマイナス影響は顕在化していない。むしろ、景気を支える前向きな動きも同時に見受けられる。

第1に、民間設備投資の拡大である。2016年まで減速傾向をたどった民間固定資産投資の伸び率が足元で高まりつつある。業種別にみると、娯楽や教育などのサービス業に加え、通信機械やコンピューターなど製造業の伸び率も高まっている。この背景には、景気回復で設備稼働率が上昇したことに加え、政策面の支援も大きく寄与している。すなわち、ここ数年で、製造強国を目指すための包括的パッケージである「中国製造2025」、インターネットを活用してあらゆる産業の付加価値を高める「インターネットプラス」、製造プロセスの高度化を目指す「ロボット産業発展計画」などが相次いで策定された。中国政府は、AIやIoTなど最新技術を活用しつつ、新規ビジネス創出や産業活性化を進めることを目指しており、こうした新しい政策軸が製造業の投資活動を活発化させている。

第2に、個人消費の拡大である。ここ数年、実質GDP成長率に対する個人消費の寄与率は高まりつつある。こうした消費拡大を実現させたのが、所得環境の改善である。中国でも、景気拡大の持続と生産年齢人口の減少により人手不足感が強まっている。そのため、賃金が着実に増加しており、雇用者に対する付加価値分配率も高まる方向にある。

以上を踏まえれば、これまでの高めの成長ペースから若干の減速は余儀なくされるものの、民間需要に支えられた堅調な成長が続くと見込まれる。2018年通年では6.8%成長、2019年は6.7%成長と、高めの経済成長になる見通しである。

■製造業への逆風がリスク
もちろん、中国経済はかねて指摘されているように様々な下振れリスクを抱えている。過剰債務、不動産バブルなどの構造的なリスク要因のほか、短期的観点では、製造業活動への逆風に注意が必要である。

前述したように、中国の製造業は設備投資を急拡大させているが、ここにきて変調の兆しもみられるようになった。実際、わが国の中国からの工作機械受注は、2016年以降に急ピッチで拡大した後、本年入り後は弱含みに転じている。2016~17年の増加ペースは、リーマンショック後に4兆元の大型景気対策を打ち出したときと同じペースであったため、さすがに設備過剰感が高まってきたものと推測される。

さらに、通商面からの下振れ圧力にも注意が必要である。米トランプ政権が打ち出した様々な対中貿易制裁が実行された場合、中国経済が大きな打撃を受けることは言うまでもない。とりわけ、製造業のハイテク分野への影響が最も懸念される。実際、米国の対中制裁は「中国製造2025」の実現阻止が隠れた目的の一つとの見方もある。ハイテク製造業を狙い撃ちした制裁措置が強まれば、中国政府が目指す産業・経済構造の高度化にもブレーキがかかるであろう。

中国の製造業活動は、わが国の原材料・資本財産業にも大きな影響を及ぼすだけに、今後の動向を注視していく必要がある。
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