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日本総研ニュースレター 2017年11月号

気候変動対策「プランB」
~民間による「適応策」開発を急げ~

2017年11月01日 新美陽大


米・パリ協定離脱宣言が持つ意味とは
 米国のトランプ大統領は今年6月、パリ協定からの離脱方針を突如表明した。さらに10月には米国環境保護局が、発電所を対象とした温室効果ガス排出規制「クリーンパワープラン」の撤廃を発表するなど、米国内の政策運営も「脱炭素化」から急速に距離を置き始めた。
 二酸化炭素(主要な温室効果ガス)の排出量を見ると、米国は現在、世界全体の排出量のうち約16%を占め、中国に次いで世界第2位に位置する“大”排出国だ。米国の離脱は、パリ協定にとって実効性を失いかねない重大なリスクといえる。パリ協定の下で各国が有効な目標を立て、それを着実に実施して温室効果ガスの削減を達成するモチベーションが保てるのか、今後、米国に続いてパリ協定を離脱する国が現れないのか、といった懸念もある。
 トランプ政権の方針転換には、海外のみならず米国内からも批判の声が上がる。また、実際の離脱にはさまざまな手続や期間を要することもあり、宣言どおり米国がパリ協定を離脱するのかは未だ不明瞭であり、トランプ政権には引き続き翻意を促すことは重要だ。一方で、我々は米国の脱退を含む最悪のシナリオを前提とした「プランB」の検討を、本格的に始める必要に迫られている状況にもある。

「プランB」での主役は民間事業者
 パリ協定をはじめとした国際協調体制が崩れた場合、気候変動への取り組みは、各国の自主的な努力に委ねられることとなる。その場合の「プランB」における取り組みにおいては、気候変動への「適応策」が一層重みを増す。
 パリ協定等の国際協調体制下での取り組みは、温室効果ガスの排出を減らすなど、気候変動の速度を抑えるための「緩和策」が主となっている。しかし、もしその緩和策の推進力が失われるとするならば、気候変動の速度はもはや抑えがたいものとして取り扱うほかない。つまり、「気候変動は避けられない」環境下で、その影響を将来にわたり最小限に抑え、安心で快適な生活を続けるための「適応策」の重要性が高まるのだ。
 例えば、温暖化により頻発するようになったといわれる洪水や崖崩れなどからの被災防止策の検討など、気候変動が引き起こす 「マイナス」を避けるためのリスク管理という適応策へのニーズが一層高まることが予想される。また、高温下でも生育が可能な農作物の開発など、「プラス」を生む新たな製品やサービスへのニーズも急激に高まるはずだ。
 この「プランB」実行の鍵を握るのは、民間事業者の力の活用だ。気候変動による影響は地域や環境によってさまざまであり、これらに対する柔軟かつ多様な適応策を検討するには、社会や顧客のニーズを知り尽くした民間事業者のノウハウが欠かせないからだ。また、世界的にも気候変動関連ビジネスへの関心は非常に高くなっており、民間事業者にとっては魅力のある市場となってきている。
 気候変動への適応策へのニーズは、国内市場もさることながら海外、とりわけ途上国で高い。国連環境計画によれば、適応策関連ビジネスの市場規模は、2050年時点で年間50兆円にも達すると推計している。また、英国政府によれば、世界の適応関連製品・サービス市場における売上高は、現状でも年間11兆円にも上ると見込まれている。「プランB」においては、市場規模は一層拡大するだろう。

民間事業者の適応策、自社の「材料」を活用せよ
 ただし今のところ、気候変動適応策の推進を積極的に公表している企業はまだ少ない。一方、台風や豪雪など、厳しい自然条件に対応しながら発展を遂げてきたわが国には、気候変動に対応できる適応策の「材料」が数多く潜在していると考えられ、今後の国際競争力獲得において、有望な事業が生まれることが期待できる。
 政府は、具体的な気候変動影響や適応策に関する情報共有の推進、輸出奨励策や優れた事例へのアワード制度等の支援策を進め、民間事業者の適応関連ビジネスへの強力なバックアップ体制の整備を急ぐべきだ。
 「プランB」の重要性が増しつつある今こそ、民間事業者は、既存製品・サービスの再評価をしながら、新たな製品・サービスの開発を加速させるべきではないだろうか。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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