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CSRを巡る動き:環境規制の強化が進む中国

2018年05月01日 ESGリサーチセンター


 中国が環境規制の運用を強化しています。2014年に環境保護法を改正し、法令違反した企業に対しては、罰則によって厳しく取り締まる方向に舵を切りました。例えば大気汚染分野で企業が基準値以上の汚染物質を排出するなどの法令違反をした場合、生産制限・生産停止命令を受けるだけでなく、会社資産の差し押さえや責任者の身柄拘束、犯罪立件等の処分、日割りで罰金額が膨らむ日割連続処罰を受けることになります。取り締まり件数はここ数年で急増し、中国環境保護部公表資料によると、2017年1月~9月の期間で、生産制限・生産停止命令を受けた件数は6,420件(前年比170%増)、会社の資産等を差し押さえられた件数は13,115件(前年比156%増)、日割連続処罰を受けた件数は822件(前年比57%増)、罰金総額は96,057.6万元(日本円で約160億円)に上っています。また、CO2排出削減の分野では、強制的に企業に排出枠を割り当てる制度(キャップ&トレード)が2017年12月に中国全土で導入されました。まずは電力部門のみが対象ですが、期限内に割当額の完納義務を履行しない企業に対しては罰金が課され、支払わない場合は毎日罰金額が3%ずつ増やされることになっています。

 一方、日本では、大気汚染に関しては、大気汚染防止法においてVOCや石綿、水銀等、新たな汚染物質を追加するための一部改正は行われているものの、古くからあるばいじんやNOxの排出基準値については、驚くべきことに20年以上変わらない規制値が採用されています。罰則に関しても、大気汚染防止法に違反した場合、行政指導や施設の一時停止命令、罰金等の処分を受けますが、処分件数は毎年数件程度です。CO2排出削減対策のキャップ&トレードについては、10年以上前からパイロット導入されているものの試験的な取り組みにとどまり、規制的な制度の実現にはいまだ至っていません。直近では、2018年2月に「気候変動適応法案」が閣議決定され、自治体に対して地域での適応計画の策定が義務付けられていますが、努力義務となっており、計画が策定されなくても罰せられません。企業に対しても国や自治体の施策に協力すること等が求められていますが、強制力はありません。

 日本政府は経済成長へのマイナス影響を懸念するあまり、企業に対して、強い環境規制をかけることができていないのが現状です。しかし、こうした状態が続けば、企業は環境負荷を削減しようと企業努力を行う動機がなくなり、省エネや環境配慮型製品・技術開発が進まなくなることも懸念されます。その一方で中国では、環境規制が強化された影響で環境関連技術・ノウハウが中国国内企業にも蓄積されてきていると言います。実際に優れた環境性能で製品シェアを伸ばしている中国企業も多くあります。例えば太陽光発電の分野では、全世界の太陽電池生産の約60%を中国企業が占めています。米国でも2017年の太陽光パネル生産の上位10社のうち7社が中国企業であり、新興国だけでなく先進国でもシェアを伸ばしていることから、価格面だけでなく技術力も高く評価されていると言えるでしょう。工場や発電所等から排出されるガスの脱硫・脱硝技術でも、世界トップクラスの技術力を持つ中国企業が現れています。

 「日本の環境技術は世界NO.1」という言葉は、幻想になりつつあります。日本企業は、国内の規制の緩さに甘んじていては、商機を逃すことになるでしょう。そればかりか、世界的な環境規制強化の波に乗り遅れ、追加的なコストが増えることにもなりかねません。世界の環境動向を見据えて対応を進めることができる企業こそが、今後、持続的に発展していくことができるでしょう。
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