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【次世代交通】
自動走行ラストマイルで町をよみがえらせる(第3回)無人の自動走行移動サービスを成立させるために

2018年03月27日 井上岳一


 今年1月、トヨタ自動車が米国のCES(Consumer Electronics Show)において、旅客、物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービス専用の次世代電気自動車「e-Palette Concept」を発表した。e-Paletteは、自動走行が前提の、運転席のない電気自動車だ。個人が所有するオーナーカーではなく、企業が使用するサービスカー(商用車)という位置づけだが、余計な装飾を廃した箱型のデザインは、商用車のスタンダードとなっている「ハイエース」を彷彿とさせる。ハイエースのように、デジタル時代の商用車のスタンダードのポジションを取りたいというトヨタの野心を感じさせるデザインだ。

 トヨタは、その野心を「モビリティサービスプラットフォーマー」という言葉で表現する。単に車としてのスタンダードになることを目指すのでなく、モビリティサービスのプラットフォームになることを目指しているのだ。サービスのプラットフォームとしての位置づけを強調するため、トヨタは、通販大手のアマゾンや宅配ピザのピザハット、ライドシェアのウーバーやDiDi(中国)と共にサービス開発をしていくことも併せて発表した。もちろん、協働の相手はこれに留まらない。e-Paletteは、車両制御のインターフェースをAPI(※)で公開するとしており、この車を使ってサービスを提供したい事業者がサービス提供用のアプリを開発できるように配慮している。APIを公開することでサービス提供者を集めるのはスマホでは当たり前のやり方だが、それを車の世界に持ってこようとしている点にトヨタの革新がある。自動運転時代になると車がスマホ化するとはよく言われることだが、スマホ化するなら、単なる端末メーカーでなく、AndroidやiOSを提供できるポジションをとらないと旨みがない。トヨタはそのポジションをとりにいくのだという宣言が、e-Palette発表の核心だ。

(※)Application Programming Interfaceの略:あるシステムを外部のプログラムから制御するためのインターフェースのこと。e-Paletteを使って何らかのサービスを提供したい事業者は、APIに従ってアプリをつくることで、e-Paletteの制御ができるようになる。

 日本人はあうんの呼吸で擦り合せることは上手だ。それをモノづくりの領域で、芸術的なクオリティにまで高めたのがトヨタだが、プラットフォームはそれとは全く別の論理で動く世界だ。言葉も文化もスキルも異なる多様な存在が自由気ままにプラットフォームの上でやり取りをする。その多様性を許容しながら全体を調和させることができなければ、プラットフォーマーにはなれない。まさに生態系が育つ場づくりをしないといけないわけだが、そういう多様な存在が共に生きる場をつくる経験とノウハウが、同質な社会に慣れた日本人には圧倒的に不足している。トヨタが踏み込もうとしているのは、オープンな生態系づくりという、日本人にとって未踏の領域なのだ。

 無人の自動走行移動サービスを政府は「限定地域」内の低速走行から解禁する方針だ。低速だから、走行距離も短くならざるを得ない。いわゆるラストマイルだ。ラストマイルの悩みは、走行距離が短いために多額の運賃がとれず、運賃収入に多くを期待できない点にある。運賃以外の収入手段を持たなければ事業として成立しないため、e-Paletteのように、車を使った様々なサービスを開発し、全体で収支を合わせるようなことが必要になる。つまり、ラストマイルは必然的に単なる移動サービスではなくなるはずだ。そうなると、e-Paletteと同じく、オープンな生態系づくりが必要になる。それを事業主体として実施するのは誰か?交通事業者か?しかし、バスだ、タクシーだという規制の中で、十年一日のビジネスをやってきた交通事業者にオープンな生態系づくりが果たしてできるのか?そもそも規制に縛られた交通事業の中で、自動走行のメリットを生かしたモビリティサービスの立ち上げができるのか?それらの課題を一つ一つ解いていかなければ、自動走行移動サービスがビジネスとして大きく花開くことはない。つまり、自動走行を普及させるには、技術や法制度の問題だけでなく、文化や価値観の変革も必要になるということだ。
 このように、技術革新と共に社会変革が求められる点が、自動走行の難しさであり、面白さでもある。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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