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新たな官民連携事業の形
~SIBによる社会課題解決の可能性~

2017年11月01日 大島裕司


SIBが求められる背景と特長
 現在、国内の地方自治体は、深刻化する少子高齢化等の社会課題や、多様化する地域住民のニーズへの対応に追われている。一方、それらに対応する行政職員の増員は容易ではなく、加えて、課題やニーズに対応するための政策検討予算(政策的経費)の確保も難しくなりつつある。
 地方自治体が、人材、ノウハウ、お金とあらゆる面で手詰まりになりつつあるなかで注目されるのが、ソーシャル・インパクト・ボンド(以下、SIB)と呼ばれる事業手法である。
 SIBは、(1)社会課題解決のための事業を民間資金で実施し、(2)(事業実施によって)社会課題が解決することにより創出される社会コストの削減費用を原資に、事業にかかる全てのコスト(事業費、モデル構築費用、資金提供者への返済・配当等)を賄う仕組みである。特に、(A)自治体は成果の達成を求めるが、手法自体は民間事業者側の裁量に任せる(「Pay for Success」の概念)、(B)成果の達成をもって支払いを行う(後払い)、点が特長となる。
 これらからSIBは、①行政として手が付けにくい社会課題に対し民間資金を活用しチャレンジできる、②民間の裁量権が大きいため民間ノウハウが最大限発揮される、③成果の度合いによってボーナスを設けることで事業者のインセンティブが働き、高い成果が得られる、といった通常の委託事業では得難いメリットがある。

国内でもSIB事業が始まる
 SIBは2017年4月時点で18カ国70件以上で実施されている。世界初の事例は2010年に英国ピーターバラ市で実施された受刑者向けの再犯防止プログラムとされる。これは、短期受刑者の約6割にも上る再犯率を引き下げ、膨れ上がる刑務所収容コストの削減と地域の治安向上を図るプログラムとなっており、低下した再犯率に応じて支払いが行われるモデルとなっている。
 一方、国内では、2016年度に日本総研が受託した「平成28年度健康寿命延伸産業創出推進事業(健康経営・健康投資普及推進等事業)」(経済産業省)のなかで構築した神戸市、八王子市での事例が初の本格的な事例となる。両市では、糖尿病性腎症重症化予防(神戸市)および大腸がん検診受診率・精密検査受診率向上(八王子市)についてSIBとしての事業化支援を行い、本年度より実際の事業が開始されている。
 例えば八王子市では、これまでの委託事業にはなかった民間のアイデア(喫煙等の個人の生活行動様式に合わせた最適な受診勧奨はがきをAIを用いて作成、送付)によって受診率の向上を図っている。支払いについても、設定した受診率等の目標達成をもって行われるという、SIBの特長が生かされた形となっている。

国内におけるSIBの適用可能性と課題
 今後、SIBは、より幅広い領域への適用が期待される。
 特に、国内全体で3兆円ともいわれ、増え続ける生活保護費に対しSIBによる費用の歯止めは有効と考えられる。例えば公営住宅建設・改修の部分にPFI(民間資金を活用した公共施設整備)を、さらに生活保護を受ける入居者には就労支援等プログラムをSIBで提供できれば、住居提供から職の獲得まで、民間資金を活用しながら行政としてトータルで支援が可能となる。
 SIBを用いることで、就労と、その先の生活保護費の削減が達成されたことをもって行政が支払いを行えるとともに、成果ボーナスを設定すれば事業者からより質の高いプログラムを実施する意欲を引き出すことが期待できる。SIBは与えられた仕様だけを淡々とこなす「やりっぱなし型」の事業とはならないため、より多くの領域での活用が期待される。
 SIBは、行政、事業者、資金提供者などそれぞれにメリットがある仕組みとなっている。ただし、国内でSIB事業を組成するには、①従来型事業からの自治体職員の発想の転換、②事業終了後も含め、成果を適切に表す指標と支払方法の設定、③事業規模の拡大、などの課題がある。
 SIBは10年弱と歴史が浅く、課題も多い。しかし、行政単独では対応が困難な課題やニーズについて、民間事業者の専門的人材、ユニークなアイデア、そして投資家、金融機関などの民間資金を活用しながら官民で取り組める事業ツールとして、非常に有用と考えられる。今後の地方自治の発展に欠かせない取り組みとして、自治体をはじめとした関係者の積極的な挑戦を期待したい。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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