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アジア・マンスリー 2018年3月号

半導体需要にけん引される韓国・台湾経済

2018年02月21日 松田健太郎


韓国・台湾では、半導体需要にけん引された高成長が続いている。今後も、半導体産業を経済の中心としていくためには、用途拡大への対応や研究開発投資の拡大など半導体産業の構造改革が求められる。

■回復が続く韓国・台湾経済
半導体が主力輸出品目である韓国・台湾では輸出をけん引役に高成長が続いている。GDPに占める半導体輸出比率をみると、韓国・台湾ともに上昇傾向にある。2017年には韓国が6.7%と急上昇したほか、台湾でも18.5%と高水準にあり、経済における半導体産業の重要性が高まっている。

もっとも、半導体需要の拡大による景気回復は過去にもあったが、その都度シリコンサイクル(半導体需要の循環)に翻弄されてきた。以下では、最近の好調な半導体需要の背景を整理したうえで、その持続性と先行きのリスクについて考察する。

■好調な半導体需要の背景
足元の好調な半導体需要の背景には、以下3点が指摘できる。

第1に、スマートフォンやタブレット端末の普及である。2010年以降、スマートフォンが本格的に普及し始め、毎年新モデルが発売されるため、買い替えスパンの短期化に伴い定期的な需要が生じている。また、中国など新興国で格安端末に特化したメーカーも誕生しており、こうした企業の大量生産に伴い、半導体需要が押し上げられている。

第2に、データセンター需要の拡大である。企業が業務効率化を進めるなか、セキュリティーや設備管理の観点からクラウド化が進展しているほか、ビッグデータの活用に向けた情報蓄積・分析などデータ通信量の大幅な拡大を受けて、データセンター設備が急速に普及している。

第3に、新分野への用途の広がりである。家電や生産機械の高度化、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など、これまでと比較して半導体が使用される分野が急速に拡大している。また、自動運転の本格導入に向け、自動車の半導体搭載量が増加するとみられる。

先行きを展望すると、スマートフォン需要は一巡する可能性があるものの、データセンター向けの需要が根強いほか、新用途への需要も力強さを増すため、世界の半導体需要は総じて順調な拡大が続くと予想される。

■二つのリスク
以上のように、韓国・台湾では世界的な半導体需要の好調さを背景に景気拡大が続くとみられるものの、半導体依存度の高さゆえ、二つのリスクを抱えている。

第1に、半導体産業のなかでも特定分野への集中度が高く、シリコンサイクルに翻弄されやすい点である。韓国・台湾ともに半導体輸出では品目に大きな偏りがある。まず、韓国では、メモリ半導体に大きく特化している。2017年には需給ひっ迫によりメモリ価格が上昇したことを受けて、半導体に占めるメモリの割合は70.3%まで上昇した。他方、非メモリ半導体は、プロセッサ・コントローラでは中国に及ばず、その他集積回路も少額にとどまっている。2015年半ばに供給過剰から在庫調整につながり、価格が下落したように、短期的に輸出を下押しするリスクとなる可能性がある。

一方、台湾では、受託生産であるファウンドリに特化しており、約9割をシステムLSIなど非メモリ半導体が占めている。こうした生産形態に伴い、主要顧客である米中企業の生産在庫動向によって好不調が大きく左右される。このように、韓国・台湾の産業構造には、シリコンサイクルや外部環境に影響を受けやすい体質が残っている。

第2に、中国国内の生産力が急拡大している点である。近年、半導体需要の拡大をけん引してきたのは中国であり、中国を最終需要地とするサプライチェーンの構築が進んでいる。

とりわけ、大きな変化は中国企業の競争力が急速に高まっていることである。中国政府は2014年に「国家集成電路産業要綱」を公表した。これまで輸入に依存してきた半導体の国産化を進め、競争力を持つ国内企業を育成するものである。この計画推進にあたり、未熟な技術面や人材面の不足を補う方法として、海外企業への出資や人材の引き抜きが活発化している。
こうした内製化の動きを受けて、近年中国の半導体輸入は頭打ちとなっている。2017年は増加したものの、世界的な半導体需要の拡大と比較すれば小幅にとどまっている。一方、中国国内企業の売上高は2011年以降、右肩上がりに増加し、2016年には輸入額の3割近くに達している。国産化の流れが進むことは韓国・台湾の輸出にとって大きな脅威となることが予想される。

さらに、中国企業のキャッチアップが進んでいる例として、半導体製造装置輸入額も増加傾向にある。2017年はメモリ需要が急増した韓国が設備投資を拡大したものの、中国も着実に増加トレンドが続いている。この増勢が持続すれば、生産能力で韓国・台湾を上回る可能性がある。

このほか、中国の半導体産業育成が、韓国・台湾と異なりバランスが良いことも強みである。韓国・台湾と異なり、中国では、メモリ・プロセッサ・半導体デバイスが各々3割程度となっている。このような分散化の結果、半導体価格の下落や発注元企業の動向により業界、ひいては景気全般が左右されるリスクは、韓国・台湾と比較して限定的とみられる。

■産業構造改革が急務
以上を踏まえれば、韓国・台湾の半導体産業は、短期的な下振れリスクを抱えていることに加え、中長期的にも中国企業との競争が激化していくことが懸念される。今後、韓国・台湾が半導体産業を経済の柱としていくためには、シリコンサイクルを平準化する必要があるだろう。

家電や産業用機械への半導体使用の増加やAI、自動運転といった新分野への取り組みが本格化するとみられるなか、多様化する用途への対応が不可欠であるほか、現状優位にある競争力を一段と強化することも求められる。とりわけ、研究開発投資の拡大が重要である。2016年の売上高研究開発費率をみると、米国の半導体企業が20%前半となる一方、韓国・台湾とも10%以下の水準となっており、研究開発費を増加させる余地があるとみられる。

輸出依存度が高い韓国・台湾経済において、大きなウエートを持つ半導体産業の重要性はこれまで以上に高まっている。中国の半導体産業の成長が著しいだけに、早急にこれらの構造改革への取り組みが求められよう。
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