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インド新会社法が迎えた3年目のCSR活動

2018年01月30日 泰平苑子


 インドでは2014年度の新会社法施行により、取締役規定(女性取締役の選任義務など)や会社の定義規定(一人会社制度や非公開会社など)に加え、企業のCSR活動に対する委員会新設や支出義務が規定された。企業によるCSR活動の義務化は、インドが世界初の取り組みである。
 CSR活動の支出義務の対象企業は、①純資産50億ルピー(約86億円)以上、②総売上高100億ルピー(約173億円)以上、③純利益5,000万ルピー(約8,600万円)以上という3つの要件のうち、少なくとも1つを充たす企業で上場・非上場は問わない。対象企業は、直近3会計年度の純利益の平均2%以上をCSR活動に支出することが、2015年度から義務付けられている。

 新会社法施行から3年目を迎えた2017年度は、インド対象企業のCSR支出額が昨年度から8%増加する見込みであることがIiASによって2018年1月に発表された。BSE(ボンベイ証券取引所)の上場企業100社は、純利益の1.9%にあたる70.5bnルピー(約1,210億円)を教育・農村開発・健康衛生などの分野に支出したことが分かった。そのうち81社はCSR活動のインパクト評価報告書をまとめるなど、活動だけでなく自己評価も定着している。

 日本にも「三方良し(売り手良し、買い手良し、世間良し)」という近江商人の精神がCSRの受け入れ素地となったように、インドにも素地となる精神がある。インドでは「Sarve bhavantu sukhinah, Sarve santu niramayah (May all become happy, May all be free from illness)」という考え方で、昔から財閥を中心とした企業により社会貢献活動が行われていた。CSRは欧米の概念だが、日本もインドも素地は備えていた。

 インドのCSR活動事例として、WaterlifeとMaruti Suzukiの「Water ATM」を紹介したい。Waterlifeは、ドナーパートナーと呼ばれる企業や団体から寄付金を得て、地元自治体より土地や水源の協力を得ながら、高品質で安全な水を貧困地域に手頃な価格で持続的に届ける社会的企業である。Waterlifeのドナーパートナーである自動車メーカーMaruti Suzukiが、新会社法のCSR活動の一環として、「Water ATM」という水供給プラントの設置と運営のプロジェクトを行っている。プロジェクトの実施地域は、Maruti Suzukiの工場周辺に形成された工場労働者の新興集落だ。工場は人里離れた地方にあり、基本インフラが未整備である所が多い。そして労働者は出稼ぎが多く、その工場地域にゆかりも無いため、自分達で自治や社会構築を進めることも難しい。お会いしたMaruti SuzukiのCSR担当者は、プロジェクトの実施理由として「企業の手が加わることで、社会構造が変わってしまう。我々は周辺地域の変化に対して責任があり、このプロジェクトを行っている」と語った。改めて、企業の利益追求だけでなく、企業活動が社会へ与え得る影響に責任を持ち適切に行動するのが、企業の社会的責任(CSR)だと感じた発言だった。

 インド新会社法のCSR活動では対象分野とインパクト評価を定めており、単発的イベントはCSR活動として認められない。CSRの法律による義務化には賛否両論あるようだが、自社活動により引き起こされる社会変化に対して、企業がCSR活動を行う姿勢は印象的だった。日本では組織統治・人権・労働慣行・環境など直接影響だけでなく間接影響も含めた、広域のCSR活動が多いように感じる。いま一度、自社が与え得る社会変化を厳しく見つめ、行うべきCSR活動を絞り込んだらどうだろう。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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