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アジア・マンスリー 2018年1月号

対中投資の減少と中国の外資政策

2017年12月20日 関辰一


2017年の外資による対中投資は2年連続の減少となる公算が大きい。対中投資の減少に危機感を持った中国政府は、外資投資規制の緩和を進めているものの、投資促進に逆行する政策もみられる。

■減少する対中直接投資
このところ、外資による対中直接投資が減少している。直接投資とは、外国企業が中国で工場を建設したり、中国企業の株式を取得したりして、中国で「直接」的に事業経営を行う行為である。2017年1~10月の米ドルベースの対中直接投資は前年同期比▲2.7%と、減少に歯止めがかかっておらず、2017年は2年連続の減少となる公算が大きい。中国工場を閉鎖し、対中投資を引き揚げる動きもみられる。

国・地域別にみると、韓国からの投資は中韓関係の悪化もあって前年同期比▲27.2%と大幅に減少した。米国とEUからの投資も、それぞれ同▲19.2%、▲8.7%と減少した。日本からの投資は2012年に生じた日中関係悪化による影響が弱まって同+8.9%と、5年ぶりに増加したものの、投資額は2012年1~10月の4割にとどまる低水準であった。

この背景には、中国での人件費上昇や人民元高などで、生産拠点としての魅力が低下したことがある。ここ5年間の全国都市部の平均賃金は、年平均+10.1%のハイペースで上昇してきた。また、足元では再び元高が進行しており、1~11月平均でみると、人民元の対米ドルレートは前年同期比2.3%の元高ドル安となった。

外国企業が中国を敬遠するようになると、中国経済の中長期的な伸びしろが小さくなる恐れがある。外資系企業は中国の経済成長に大きな貢献をしてきた。用地を取得して、工場を建設し、機械や設備を据え付け、生産能力の拡大をけん引してきた。これらに伴い、多大な資金が中国に流入し、付加価値を生み出してきた。なによりも中国の雇用拡大に貢献したことが大きい。労働者は外資系企業から給与を得るだけでなく、仕事を通じて先進国の技術を身に着けてきた。

■外資投資規制の緩和を進める政府
対中投資の減少に危機感を持った中国政府は、対中投資のてこ入れと高度化に向け、外資投資の規制緩和を進めている。とりわけ、自動車産業と金融業における外資出資比率規制の緩和が注目される。

2017年4月25日に発表された「汽車産業中長期発展規划」では、2025年を目処に自動車メーカーへの50%超の外資出資を認める方針を明らかにした。これまで、外資企業が中国で自動車を生産するためには、地場企業と合弁会社を設けることが求められ、外資が出資できる比率は50%が上限となっていた。

また、2017年11月10日に中国政府は金融業の外資規制の緩和を発表した。まず、2020年までに外資による証券と資産運用業への全額出資を認める。中国では、外資企業が中国で証券と資産運用業を営むためには、合弁会社を設立しなければならないが、これまで外資の出資比率は49%が上限であった。これを、2017年中に51%に引き上げ、2020年には100%の出資が認められる予定である。次に、2022年までに外資による生命保険業への全額出資を認める。これまで、生保における外資出資比率の上限は50%であったが、証券業と同様に2017年中に上限を51%、2020年には100%まで引き上げる。さらに、中国資本の銀行への外資出資規制を2017年中に撤廃する。今後、外資は中国の非金融企業と同じ条件で、中国資本の銀行へ出資することができるようになる。なお、銀行業では外資は全額出資の現地法人を設立することがすでに可能である。しかし、外資全額出資の銀行では預金の受け入れができないなど、業務範囲が制限されている。このため、外資が広範囲の業務に携わるためには中国資本の銀行に出資する必要があったが、これまで外資出資比率は25%が上限となっていた。

このほか、中国政府は上海市、広東省、天津市など11地域に自由貿易試験区を設け、区内に限定した外資投資の規制緩和を進めている。2017年6月16日、政府は自由貿易試験区におけるネガティブリストを更新し、外資投資規制を27項目削減した。具体的には、娯楽業における大型テーマパークの建設・運営業務、情報通信業におけるインターネット接続業務などを新たに解禁した。この結果、自由貿易試験区における外資投資の規制項目数は、2013年の190項目から2014年に139項目、2015年に122項目へ徐々に削減され、2017年には95項目まで減少した。

これらの措置は、外国企業による対中投資の呼び水となる可能性がある。自動車や金融、娯楽など一連の措置に関連する多くの分野において、中国の国内需要は拡大余地が大きく、日本企業にとっては大きなビジネスチャンスとなる。

■投資促進に逆行する政策も
ところが、その一方で、政府は対中投資の促進に逆行する政策も打ち出している。5年に一度の共産党大会の初日にあたる2017年10月18日、習近平国家主席は政治報告で、今後「新時代の中国の特色ある社会主義」を目指し、「あらゆる活動への党の指導を確保する」と表明した。すでに、政府は地場企業や合弁企業に対して、定款に党の指導を受け入れるよう要求し始めた。いずれ外資の全額出資企業に対しても定款に党の指導を受け入れるよう要求し始める可能性がある。

そのため、外資系企業からは懸念の声が上がっている。たとえば11月24日、在中ドイツ商工会議所は、企業の自由な経営判断こそがイノベーションや成長の基礎であり、企業経営に対する党の介入が強まり続ければ、中国市場からの撤退や投資戦略の再考もありうると表明した。また、中国で事業を展開する外資系企業は、イコールフッティングのビジネス環境を中国政府に求め続けてきたものの、政府は国有企業を優先する補助金等の諸制度を継続している。

対中投資を促進するためには、規制緩和のみならず、企業経営への政府介入を控え、国有企業を優先する政策スタンスを改めることも重要なポイントとなろう。
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