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アジア・マンスリー 2017年10月号

【トピックス】
中国で拡大する企業の金融資産投資

2017年09月21日 関辰一


中国では、企業の債務と金融資産が両建てで急増している。中国経済が抱えるリスクとして、不動産バブルに注目が集まりやすいが、景気失速をもたらしかねない企業の金融資産投資にも警戒すべきである。

■急増する企業の債務と金融資産
近年、中国の企業債務は急拡大している。国際決済銀行によると、2016年末の非金融企業(金融機関を除く企業部門)の債務残高の対GDP比は166%と、日本のバブル期を上回る。

企業債務拡大の要因の一つは、過剰な固定資産投資である。リーマン・ショック後の4兆元の景気対策を受けて、地方政府が融資平台を通じて調達した資金の多くは、効率性や採算性の低いインフラ建設や不動産開発投資に投じられた。また、鉄鋼やセメント、太陽光パネルなどの製造業セクターでは、大規模な金融緩和によって資金調達コストが低下するなか、新規設備投資を増加させた。非金融企業の期末貸借対照表勘定によると、純固定資産は2008年末の50.9兆元から最新の公表値である2012年末には79.2兆元へと増加した。

もう一つの注目点は、金融資産投資の拡大である。2008年以降の大規模な金融緩和を受けて、緩和マネーが金融資産に大量に流入している。実際、非金融企業の金融資産は2008年末の35.7兆元から2012年末には88.8兆元へ増加した。期末資産に占める割合をみても、30%から39%へ上昇した。ここから、足元においても非金融企業の債務残高の少なくとも4割は金融資産投資に回っていると推測される。

さらに、非金融企業の金融資産を、リスクの低い現金・預金と、よりリスクの高いその他金融資産に分けてみると、後者が21.2兆元から57.6兆元へと急ピッチで増加した。この統計は現在は発表が停止されているものの、以下で紹介する「委託融資」の動きなどを踏まえると、その後も企業による金融資産投資は一段と拡大している公算が大きい。

■人気が集まる委託融資
企業は様々な金融資産投資を行っているが、規模が大きく、リスクも高く、かつシンプルなスキームなのは、委託融資を用いた手法である。委託融資とは銀行を仲介役として、企業が他の企業に貸付けるものである。中国では、企業間で直接貸借を行うことが禁止されている。そのため、銀行に仲介手数料を支払っても高い運用利回りを得られる委託融資に人気が集まっている。

代表例は、コンテナ船などの生産販売に携わる舜天船舶社のケースである。国有企業である同社は、2012年に表面利率年6.6%の社債発行で資金を調達し、2012年から2013年末までに、銀行を経由して複数の非関連会社向けに年率18~19%で資金を貸し付けていた。

最近では、アルミ生産の国内最大手である中国アルミの事例が注目されている。2017年2月10日付のウォールストリート・ジャーナル紙によると、2016年上半期の同社の委託融資による受取利息は3,070万元と、前年同期の4倍余りに拡大した。これは同社の純利益の約50%にのぼる。これに関して中国アルミは、委託融資は柔軟な資産配分の一環だと説明している。

また、国有企業がグループ内に設立した資産運用会社が委託融資を手掛けるケースもある。国内のたばこ産業を独占している中国煙草総公司は、傘下にサニー・ローントップ社を持つ。金融業に属する同社は、中信銀行などを仲介役に中小企業向けに年率18%程度で資金を貸付けている。なかには、20%超の高利率の貸出しも10件以上ある。たとえば、寧波金晨四季房地産有限公司向けは年率21.6%である。

こうした委託融資の残高は、2010年末の3.6兆元から2016年末に13.2兆元に急増し、対GDP比でみると、8.8%から17.7%へ上昇している。

委託融資が拡大している背景として、以下の三つがあげられる。第1は、資金運用側のニーズである。リーマン・ショック後、政府が利下げなど大規模な金融緩和を行ったため、国有企業は低利率で資金を調達できるようになった。そのため国有企業は、銀行などから低利で借り入れを行ったり、社債を発行したりする一方、高利の委託融資で運用を行うようになった。
第2は、規制対象業種からの資金需要である。政府は、不動産セクターや石炭など過剰生産が問題となっているセクターに対して融資規制を行っている。当該セクターの事業会社は銀行から資金を得ることが困難になったため、高利率の委託融資に資金調達を頼るようになった。

第3は、仲介する銀行側の事情である。銀行が政府の意向に従って、規制対象業種向け融資を抑制すると、当該企業の経営が行き詰って銀行の不良債権が急増しかねない。銀行としては、政府の規制をかいくぐって、企業の資金ニーズに応える必要がある。そこで、規制対象企業に直接融資するのではなく、いったん国有企業に融資したうえ、その資金を委託融資の形で規制対象企業に回すという手法を編み出した。

■中国経済の不安定性を高める要因に
委託融資のほか、銀行理財商品や信託商品も、高い運用利回りを得られるため、人気の高い金融資産である。企業と家計、金融機関を合わせた統計ながら、この3種類の金融商品の合計残高は2016年末時点でGDPの80%に相当する。日本企業の現地法人のなかでも、これらの高利回りの金融商品で資産運用している企業があるといわれている。

このような動きは、バブル期の日本を彷彿とさせる。1980年代後半、日本では大規模な金融緩和を受けて、企業は巨額な資金を調達し、そのかなりの部分を財テクに投じた。それがバブルの一因となり、後に深刻な問題を引き起こした。先述のように、近年の中国でも企業の金融資産と企業債務が両建てで急拡大している。かつての日本のように、投機的な動きが潜在的なリスクを高めているといえよう。中国では不動産バブルに注目が集まるケースが多いが、景気失速をもたらしかねない企業の金融資産投資にも警戒すべきといえよう。
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