オピニオン
相談役・顧問制度についての情報開示期待の高まり
2017年08月22日 黒田一賢
コーポレートガバナンス・コード施行から3年目の株主総会シーズンが終わり、上場企業によるコーポレートガバナンス報告書公表も恒例となってきた。毎年の株主総会シーズンには、おのおの焦点となるテーマがあり、今年は 相談役・顧問のあり方が大きく取り上げられた。その先鞭となったのは2016年10月に公表された議決権行使助言機関ISSによる2017年版議決権行使助言改定案である。同案では相談役・顧問制度を定款で新たに規定する場合、当該企業の議案への反対を推奨するというものだった。実際にはそのような企業はほぼ無く、反対推奨は実際には機能しなかったものの、既に相談役・顧問制度を持つ企業およびその株主の反応に注目が集まった。中には日清紡ホールディングスのように相談役・顧問委嘱制度廃止を明言した企業もあったが、多くの企業は現状を維持しつつ、とりたてて情報開示をした企業はなかった。
そもそも相談役・顧問制度では社長・会長経験者等が退任後も会社に残り、役員時代と同様の待遇を受けている実態も少なくない。それでいて、活動内容や報酬については情報開示対象から除外されている。さらに取締役会の決定に対し実質的な影響力を及ぼす可能性が高いものの、仮にその結果として企業不祥事を引き起こしたとしても、株主に対する説明責任を負わない。その不透明さは以前より問題となっていたものの、折しもコーポレートガバナンス・コード施行により、日本企業の取締役会の慣行に注目が集まったことで、問題が再認識された格好だ。
経済産業省のCGS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会報告書では、相談役・顧問について顧客との取引関係維持等への好影響を併記しつつ、役割・処遇の不透明さや経営陣の意思決定への悪影響にも言及した。その上で、コーポレートガバナンス改革の観点からは、社内での役割の明確化・外部への情報発信とともに、他社の社外役員としての活躍を推奨した。コーポレートガバナンス・コードで独立社外取締役を2名以上任命することが推奨されているほか、海外機関投資家がより独立社外取締役の取締役会への関与を求める動きを強めていることを考慮すると、この推奨は妥当なものといえよう。
その最初の一歩として2017年8月2日に東京証券取引所は「相談役・顧問等の開示に関する「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」記載要領の改訂について」という見解を発表した。同文書では同取引所に上場する企業に開示を義務付けているコーポレートガバナンス報告書に相談役・顧問等の実態についての情報開示を求めた。開示内容の具体例として、相談役・顧問等の役職に就任している、もしくは同等の関係にある者に対して氏名や役職・地位、業務内容、勤務形態・条件(常勤・非常勤、報酬有無等)および代表取締役社長等の退任日、相談役・顧問等としての任期やその合計人数が挙げられている。改訂を反映したコーポレートガバナンス報告書の公表は2018年1月1日からである。企業の開示内容に引き続き注目していきたい。
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。