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いまだからこそ進めるべき、気候変動「適応」策

2017年06月13日 新美陽大


 "We're getting out." - 去る6月1日、アメリカのトランプ大統領はこのように述べて、米国のパリ協定からの離脱を表明した。さまざまな報道から今回の表明につながるような兆候もあり、また実際に「離脱」が可能となるのは、手続き上2020年以降となること等の事情はあるが、温室効果ガス排出量では世界第2位である米国のトップが、国際的な温室効果ガス削減の枠組みからの離脱を明確に表明したことは、世界に衝撃を持って受け止められた。

 これまでの気候変動に関する取り組みでは、将来的な脅威に対して、世界規模で温室効果ガスの排出量を減らす「緩和」の取り組みが最重要であることが謳われてきた。ただ、対策としてそれだけでは十分だろうか。

 気候変動が人類の課題とされている理由は、気温上昇が人間社会が未だ経験したことのない急速なペースで起こっていること、また温室効果ガスの濃度変化による気温への影響が「時間差」かつ長期にわたって表れることだ。気候変動による人間社会への影響を最小限に抑えるため、現代社会に生きるわれわれは、「緩和」の取り組みと併せて、将来的に温暖化が進んだ際に表れるさまざまな影響を評価し、それらに対する効果的な対応策を予め検討しておくこと、すなわち「適応」への取り組みを進める必要がある。今回の米国における離脱表明のような予見困難なイベントが今後も再び起こるとしても、気候変動を将来、程度の大小はあれど発生し得る問題として捉えれば、「適応」の重要性にはいささかの揺るぎもない。

 日本でも、政府が「気候変動への影響への適応計画」を閣議決定し、各省庁では具体的な検討が進められている。また、学術分野においては、より精度が高く具体的な影響評価が可能となるよう、数値モデルや評価方法に関する研究が進んでいる。今後は、企業や個人などの民間分野において、具体的にどのような影響を受ける可能性があるのか、またその影響に対してどのような対策が取り得るのかを、「政官学」での検討内容も活用しながら、さらなる議論を進めることが求められている。

 昨年の年平均気温は、世界においても日本においても、観測史上の最高値を記録した。また、今夏の日本列島は海水温の状況等から「スーパー」猛暑になるとの見方もある。激甚な気象現象にはさまざまな要因が絡んでいるとはいうものの、気候変動により顕在化した影響の一部ではあるだろう。相次ぐ異常気象や国際情勢の変化は、あるいは「適応」策の検討を進める契機と言えるのではないだろうか。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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