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【次世代農業】
次世代農業の“芽”  第1回 次世代農業の芽を育てる茂木町の「三位一体」の仕組み

2017年05月23日 今泉翔一朗


 次世代農業のコラムでは、昨年度は「農業ビジネスを成功に導く10のヒント」と題し、ICT/IoTの農業分野での活用、次世代型植物工場の展開、機能性農産物のブランド化等の注目トピックを紹介してきました。
 今年度は、「次世代農業の“芽”」と題し、新しい農業のあり方につながる製品、取り組み、考え等を紹介していきます。

 第1回目は、栃木県茂木町の取り組みを紹介します。私たちは、古口町長のお招きを受けて、山々に桜が満ちる頃、茂木町を訪問してきました。そこには、次世代農業の芽を育ててくれるであろう「三位一体」の取り組みがありました。

 「三位一体」の1つ目の取り組みは、道の駅です。茂木町の道の駅は、ここで販売する「ゆず塩ら~めん」が全国道の駅グルメ日本一になるなど、魅力的な商品がたくさんあります。その中でも大人気の商品が、「美土里(みどり)野菜」。「美土里たい肥」という町独自の特別なたい肥で作ったブランド野菜で、道の駅が地元農業生産者から買い取り、直売しています。

 この美土里たい肥の生産が、茂木町の2つ目の特徴的な取り組みです。「美土里館」というたい肥化施設でこのたい肥は作られています。美土里たい肥の原料は、生ごみ、牛糞、落ち葉、おがこ、もみがらです。お金をかけて廃棄しなければならなかったものが、逆にお金を生んでいます。

 なぜ、茂木町はこれらの取り組みをしているのでしょうか? それは、町が事業を行うことで、雇用を生み出すためと説明を受けました。茂木町も人口減少の問題に直面しており、特に、人口の流出を防ぐためには、町に仕事が必要です。しかし、そう簡単に企業を呼び込むことはできません。「企業誘致が難しいのであれば、町が仕事を作るしかない」と町長は言います。道の駅やたい肥化事業は、着実に収益を上げ、雇用を生んでいます。

 このように成果を上げている茂木町ですが、他の地域と同様、高齢化に伴う農業生産者の離農は避けられない課題です。若手の新規就農者をいかに増やすかが問われています。 そこで、茂木町が打ち出した3つ目の取り組みが、「美土里農園」です。美土里農園は、道の駅が主に出資して立ち上げた農業法人で、新規就農者に農業技術を実践で学んでもらうことを目的としています。ここで生産した野菜は、道の駅が買い取ることで、まだ農業に慣れない段階の生産者に安定した収益を保証します。

 それでも、従来型の農業を続けているだけでは、儲かる農業にするのは難しいと言えます。農業が魅力的な仕事にならなければ、増え続ける離農者を補うだけの就農者は生まれません。このような日本農業の課題に対して、日本総研は「アグリカルチャー4.0」という新しいコンセプトを提唱しています。アグリカルチャー4.0は、農業生産者が品質向上と農業経営により一層の力を入れることで、皆が儲かる農業にする仕組みです。「IoT、AIを活用した農業関連データベースと最適化アプリケーションのプラットフォーム」と、その栽培計画を自動的に実行してくれる「自律多機能型ロボット」で実現します。

 次世代農業の要とも言えるIoT、AI、ロボットを活用した製品を生み出そうとする企業にとって、茂木町のように、美土里農園という“育成の場”、美土里野菜という“ブランド”、そして道の駅という“販路”がそろったフィールドと提携することは、製品開発、マーケティング上、有効でしょう。製品開発にあたって、製品ユーザーである農業生産者の意見、農作物の消費者の意見を反映することができます。また、新規就農者の場合、既存農業生産者よりも、次世代型製品を柔軟に受け止めてもらえると予想され、製品展開の可能性が見込まれます。次世代農業に取り組む企業にとっては、こうした実際のフィールドを持つ地域と提携することが成功の鍵を握ります。

過去の連載のバックナンバーは、こちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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