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日本総研ニュースレター 2016年10月号

電力ビジネスにおけるパワー・マーケティングの重要性

2016年10月01日 段野孝一郎


JPEX拡充と再エネ普及が電力ビジネスの市場化を推進
 2016年4月、小売電気事業の全面自由化が実施され、電力システム改革は着々と進みつつある。これまでの垂直統合型の一般電気事業者は、地域独占を前提とした総括原価方式により発電・送配電・小売に要する費用が回収できたため、マーケットリスクから隔離されてきたが、この数年で電力ビジネスも徐々に市場化が進んできた。発電事業においてアベイラビリティリスク(コスト競争力に劣る発電所の稼働率が低下するリスク)が顕在化するとともに、小売事業では市場価格のボラティリティリスク(市場価格の変動により調達価格が変化するリスク)が一層高まりつつある。
 市場化が進む要因は、日本卸電力取引所(JEPX)の取引量拡充を進める政府の方針と、再生可能エネルギーの普及である。政府は新規参入者が相対での電源確保が難しいことを考慮し、一般電気事業者による余剰電源の供出、限界費用での入札等を徹底し、JEPXの取引量拡充を進めている。再エネ特措法(2017年4月施行予定)では、FIT制度の対象となる再生可能エネルギーを一般送配電事業者が買い取り、全量をJEPXに卸売りすることが想定されている。再エネ由来の電力がJEPXに大量に流通するようになると、取引日における需要や燃料価格、為替等のほか、再エネの発電量も価格形成に大きく影響することとなる。これらを総合的に分析したうえで市場価格を推定し、自社電源の発電コストとの比較考量を行い、適切に市場を活用することが小売電気事業者の競争力の源泉の一つとなる。
 発電事業者の視点に立つと、FIT制度の対象となる再エネ設備は優先給電の対象でもあるため、再エネ設備が増加すると、火力発電所等の従来電源の稼働率が低下してしまうことが懸念される。再エネ設備についても、従来の30日を上限とする出力抑制から、無制限・無補償の出力抑制へと制度改正が行われたため、売電機会逸失リスクが発生することになる。今後は従来電源、再エネ電源のいずれにおいても、売電機会逸失リスクを適切に評価し、事業モデルを構築できる事業者が競争力を有することとなる。

パワー・マーケティングはフォワードカーブの分析が鍵
 電力・ガス市場において、戦略的に卸電力取引市場を活用し、機動的に電力の売買(買電・売電)を行い、利益を創出する行為をパワー・マーケティングという。パワー・マーケティングでは、市場価格に対する発電事業そして小売事業の収益とリスクを分析し、自社のポジションおよびビジネスモデルにおける収益機会と損失機会を明らかにしながら、それらをプロアクティブに管理していくことが重要である。
 例えば、電力小売事業の比率が高い事業者は、市場価格の下落に対して有利なポジションを取っていると言える。その一方で、市場価格の上昇に対しては損失の発生可能性があるので、卸電力取引市場の価格の見通しを予測し、損失をヘッジする打ち手(発電事業者とのPPA締結、デリバティブによるヘッジ、料金の変更など)を検討する必要がある。
 こうしたパワー・マーケティングを自社のオペレーション上で戦略的に活用していくためには、前提となる市場価格の見通し(フォワードカーブ)を分析する必要がある。欧米では、卸電力取引市場の価格は電力の需要と供給に関するパラメータからなる市場関数として表現することが可能とされており、欧州の主要な事業者は自ら分析モデルによって市場価格の見通しを分析し、オペレーションに活用している。例えば、独最大手の電力事業者であるRWE社は、①燃料(石炭・ガス・石油・CO2)フォワードカーブ、②気象条件(気温等の需要変動要因+再生可能エネルギーの発電量変動要因)、③供給力(発電量)、④需要量(景気変動要因を考慮した電力需要)、⑤国際連系による越境電力の5つの要因を変数としたフォワードカーブモデリングを行っている。

電力ビジネスの市場化は不可逆的
 電力ビジネスにおいて、市場化は不可逆的な変化として、今後も一層進展していくと考えられる。電力ビジネスに関係する事業者にとっては、市場化に伴い、電力ビジネスのリスク・リターンの構造が変化することに留意が必要である。
 今後の電力ビジネスにおいては、発電事業者・小売事業者とも、市場リスクを適切に評価し、市場を戦略的に活用するノウハウを有するか否かが、競争力を左右することになるだろう。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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