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地域交通の破綻を阻止する自動運転

2017年02月28日 石川智優


 先日2月16日、安倍晋三首相が議長を務める第5回未来投資会議が開催された。議題は大きく、第4次産業革命の検討課題、日本のIT力強化、そして自動運転実現に向けた検討課題の3つであった。とりわけ自動運転については、民間議員からの報告・提言のみならず、関係する閣僚からの報告があった。なぜこんなにも自動運転が世間を賑わせているのか。それは日本の交通は解決しなければならない喫緊の課題に直面しているからだ。

 今回の未来投資会議で世耕経済産業大臣による自動運転についての報告では、交通事故削減、地域の人手不足、移動弱者の解消が課題として挙げられている。交通事故の削減は自動運転分野以外でも議論されてきていたが、その解決方法のひとつとして自動運転技術の活用というのが検討されている。その他の地域の人手不足、移動弱者の解消は今すぐにでも解決しなければならない喫緊の問題である。地域の人手不足というのは、地域交通(バス事業者やタクシー事業者)の運転手不足ということであり、移動弱者というのは、地域交通の衰退により地域内・外での移動が困難となっている住民のことである。また、民間事業者のプロジェクト構想としては「トラックの隊列走行(物流の運転手不足解消)」、「無人移動自動走行による移動サービス(ドライバー不足や赤字路線などにより移動ニーズが満たされていない地域の解消)」が挙げられている。とりわけ後者は国民の移動に直接関わる問題であり、地域によっては地域内すらもろくに移動できない状態が出現している。

 現在、われわれは全国各地の交通事業者との意見交換などを行っており、課題の共有や自動運転の導入による地域交通課題の解決に向けて検討を進めている。あわせて、自動運転に対する受容性の醸成や交通事業者以外での自動運転の実需についても議論を行っている。これらの活動の中で地方の交通事業者の声を聞く機会が多く、そこから地域交通の課題、交通事業者の課題の共通点が見えてきた。度々述べられてきたことではあるが、人口が多い地域のみを営業エリアとしている状態でなければ、ほとんどの場合で複数の赤字路線を抱えているのが交通事業者の現状だ。利用者の多いエリアで生み出した利益を赤字路線に回し、地域の足を守っている。しかし、地方都市ですら赤字路線が大半であり、黒字路線の方が少ない、という事業者も多い。過疎地に行けば、それはもう悲惨な状態であろう。 地方の交通事業者が抱える課題は主に以下のようなものがある。
・二種免許保有の運転手不足、運転手の高齢化
・運転手を確保するためのコスト(広告宣伝費、運転手教育費)上昇
・運転手不足・コスト上昇により1路線あたりのコストが上がり、路線の本数削減
・路線の本数減少による利用者数の減少
・路線減少により不便なエリアとなり、住民が減少し、さらに利用者数が減少

 このほかにも、需要あるエリアですら運転手不足でサービスを提供できず、赤字路線を廃線にし、運転手を需要あるエリアにまわさざるを得ない事業者もある。こうなると、移動困難者の増加に拍車をかける。事業採算のとれないエリアの路線は自治体から補助金をもらい運行、もしくは完全委託を受けて運行しているが、自治体のこの予算も取りにくくなりつつあるという意見もあった。

 上記のような状態が、地方の交通事業の実情だ。最終的には赤字路線の運転手の人件費等をその他路線や補助金でまかなうことができず、一部を廃線にすることを考えている交通事業者すらも存在する。現在の状態が続けば、このような地方における地域交通というのは完全に成り立たなくなるだろう。「二種免許を必要としない自動運転車両を走らせていいのなら今すぐにでもほしい、走らせたい」。このような声を複数の交通事業者から耳にした。もちろん、自動運転の導入には初期投資や事故発生時の責任区分など課題は山積であり、実現は容易ではない。

 各地の交通事業者が抱える課題を解決するためには、ドライバーによる運転を前提とした交通関連法規の見直しが必要であると思う。完全無人の車両を走らせることは難しくても、いわゆる二種免許が必要ないような交通事業というのも考えられるのではないだろうか。二種免許でなくとも、「普通免許+自動運転技術」で二種免許保有者と同等のくくりとできる、などの見方を可能とすれば、赤字路線を黒字化することもできるかもしれない。もちろん、それは現在の交通事業者の利益を守り、かつ地域交通の衰退を防ぐものでなければ意味がない。

 近年、世界の自動運転の議論は技術面ばかりが目立ち、実際どのような場所で必要なのか、誰が必要としているのかという議論はあまり表に出てきていない。さらに言うと、日本に自動運転を普及させるには、自動運転といういままで見たことなく得体の知れないものを住民に受け入れてもらう必要があるのだが、そのためにはどのような活動が必要であるかの議論も際立ってなされているわけではない。もちろん技術の議論が最初になければ話にならないのだが、今後は実需・受容性といった点での議論を、政府をはじめとして民間でも活発的になされることを強く望む。

 現在、日本は急速に高齢化、過疎化が進んでおり、自動運転の実需を見極め、早急に取り入れていく必要がある。また、それにより日本が世界の最先端のモデルとなり、今後同様の課題を抱える国の解決モデルとなるべきであろう。世界が技術競争に走る中、日本ではその部分を早々に突破し、「自動運転による交通課題解決」「住民の受容性醸成」について実証し、サービス化を実現することができれば、世界でのリーダーとなることができるだろう。

(参考)2017年2月16日未来投資会議 世耕経済産業大臣提出資料
「自動走行プロジェクト実現に向けた政府の取組」より抜粋

自動走行図



※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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