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パッケージ型インフラ輸出戦略を見直すことも一考

2017年02月14日 七澤安希子


 2017年1月半ば、安倍首相がフィリピン、オーストラリア、インドネシア、ベトナムを訪問し、日本の技術と知見を活用してインフラ整備に貢献したいと現地政府に説明したというニュースは記憶に新しい。日本政府は、設計・製造から管理運営・メンテナンスまでを含めたシステム売り(パッケージ型インフラ輸出)が、激しい受注競争を勝ち抜くための主要戦略であると打ち出している。ODAやPPPの活用を念頭に、現地政府への安倍首相によるトップセールスの効果が期待されている。内閣府によれば2014年度のインフラ受注実績は約19兆円であり、2020年には30兆円という目標が掲げられている。ただ、一方で、完全に現地民間企業主導でインフラ整備が進められている場合に、日本企業が上述の戦略でビジネスチャンスを掴みに行くことが出来るかといえば、必ずしもなかなかうまくは行かないと私は考えている。約3年間ASEAN地域で日本企業のインフラ輸出を支援してきた経験に基づき、現地企業の特徴を踏まえて理由を述べたい。

1)価格と品質のバランスに対するシビアさ
 「提案に対して常にオープンマインドである」と語る現地企業には、既に多くのトップグローバル企業が上流段階から入り込んでいることが多い。現地企業にとって選択肢は幅広く、あらゆる提案を見聞きした経験に裏打ちされている。この結果、価格と品質のバランスには極めてシビアである。

2)「日本の高品質の源泉」に対する理解不足
 「日本の製品の品質は高く、技術力はすばらしい」という言葉は良く聞く。しかし、品質の担保には個別要素技術のみならずシステムも重要であることをどこまで現地企業が理解しているかは疑問だ。言語の問題も少なからずあると思うが、個別要素技術の優劣で判断されることが多く、日本企業が有するシステムの優位性をアピールする時間が十分に確保できていない。

3)事業体制・ビジネスモデルに対するユニークな評価
 ASEAN地域においては、インフラ整備を主導し経済成長を支える現地企業が、財閥系の総資産・売上高共に数兆円といったレベルの超巨大企業であることが多い。彼らが日本企業に求めるものは、資金ではなく技術とブランドである。資金力を強みに出来ない場合、日本企業にとって、事業体制・ビジネスモデルで優位かつ低リスクとなるポジションを狙うには相当な交渉力が求められるだろう。また、現地企業が重視するビジネスの作法やネットワークといった現地のエコシステムとの共存を前提とすることが必要となる。

 要するに、パッケージ化のメリットが、日本企業が意図する程には現地企業に伝わりづらい可能性、そして時に現地企業が有する既存のビジネスパートナーを脅かす存在と見られる可能性に留意すべきなのだ。また、パッケージ化という手段が目的化しビジネスチャンスを逃すケースも散見される。パッケージ型戦略以前は技術輸出戦略が話題になった。尖った強みだけを持って現地企業と共にビジネスモデルを作りこむ、といった柔軟性のある売り込み方法に回帰しても良いのではないかと結論づけられる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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