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温室効果ガス削減に対する個人の行動変容の可能性

2016年12月13日 今泉翔一朗


 日本はパリ協定を踏まえ、温室効果ガスを2030年度に2013年度比で26%削減、そして、2050年までに80%削減するとした。部門別目標では、家庭部門で約40%削減と高い目標が立てられている。家庭部門からの排出削減は、対企業とは異なる施策が必要となる。個人の行動変容を必要とするためで、ライフスタイル変革や、意識の変革起点の施策が必要とされるゆえんだ。

 しかし、意識を変えることだけに焦点をあててしまうと、行動につながらない可能性がある。表1を見てほしい。これは日本とドイツの消費者の省エネ・再エネ設備の導入検討状況に関するアンケート結果である。この結果から、特に家庭用燃料電池コージェネレーションとHEMSについて興味関心が低いことが分かるので、意識変革が必要ということも言えるだろう。しかし、ここで着目したいのは、興味関心がある人のうち実際に行動した人の割合だ(=行動割合)。日本とドイツの行動割合はそれぞれ、LEDで53%と39%、太陽光発電で11%と7%、家庭用燃料電池コージェネレーションで4%と2%、HEMSで4%と5%であり、LED以外はどれも低い。しかも、これらLED、太陽光発電に関しては、興味関心を持つ人の割合は日本よりドイツの方が高いにもかかわらず、そのなかの行動割合は日本の方が高い。すなわち、意識が高ければ必ず行動が伴うというわけでもない。

表1 日本とドイツの省エネ・再エネ設備
(注1)括弧内は、興味関心ある人全体を分母としたときの割合
(注2)四捨五入しているため、合計が100とならない
出所:環境省「平成26年度2050年再生可能エネルギー等分散型エネルギー普及可能性検証検討委託業務報告書」より日本総研作成


 人の行動選択については、心理学に多くの研究蓄積がある。その知見によれば、人は利益を得ようとするときに、最もコストが低い方法を選択する。ここでは、金銭的コストだけではなく、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コストがあるという。上述の4つの設備のうちLEDの行動割合が際立って高いのは、他と比べて金銭的コストが安いということもあろうが、どこでも買える(=時間的コスト小)、自分で簡単に付け替えられる(=肉体的コスト小)、導入効果が分かりやすい(=頭脳的コスト小)、これまでの生活スタイルが変化しない(=精神的コスト小)という要素も指摘できる。
 これは、他の設備の普及において、興味関心がある人を前提に、多様なコストの小ささを訴求できる仕組みを設計することが有効だということを意味する。

 世界の飢餓問題と飽食による健康問題解決に取り組むNPO法人TABLE FOR TWO(以下、TFT)は、食堂・レストラン・カフェにヘルシーメニューを提供してもらい、そのメニュー購入代金のうち20円を途上国の学校給食費として寄付する仕組みの導入を進めている。私たちがヘルシーメニューを1食食べると、途上国の子どもたちが1食の給食が食べられるのだという。通常の街頭募金であれば、周りの目が気になる(=精神的コスト大)、効果が不透明(=頭脳的コスト大)といった理由で、なかなか募金に踏み出せないことがあろう。しかし、TFTは、メニューを選んだだけ(=精神的コスト小)、効果が分かりやすい(=頭脳的コスト小)というように、コストの小ささを訴求力にしていると指摘できる。さらに、レストランに来た人がTFTを選ぶのは、必ずしも飢餓問題や健康問題に関心があるのではなく、おいしそうだからという理由で選ぶ人も多いという。心理学の知見によれば、人は意識して行動するというよりも、行動した結果、意識が生まれるという傾向が強いことが知られている。おいしそうなメニューを選んだことで、結果的にこれら問題に関心を持つ人も誕生しているという。

 省エネ・再エネ設備についても、個人の心理に上手く働きかけ、コスト低減の訴求や、別の動機を起点に導入を働きかける方策が有効なのではないか。政府には、意識変革だけを強調するのではなく、これらコスト低減、別の動機付けといった視点もぜひ検討していただきたいと考える。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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