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日本総研ニュースレター 2016年7月号

ソーシャルインパクトボンドの推進上の課題
~資金の出し手の視点から~

2016年07月01日 渡辺珠子


日本でも始まったソーシャルインパクトボンド
 ソーシャルインパクトボンド(SIB: Social Impact Bond)は、昨年度から横須賀市、福岡県、尼崎市でパイロット事業が開始されたことで、多くのメディアでも取り上げられ、高い関心が寄せられるようになった。2016年6月2日に閣議決定された「日本再興戦略2016」、「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太の方針)」、「まち・ひと・しごと創生基本方針2016」においても、SIBの実現に向けた検討が推進されることが盛り込まれている。(※1)
 SIBは2010年に英国で始まった官民連携の投資スキームである。仕組みとしては、①行政がSIBを起債して公共サービス提供に必要な費用を民間投資家から集め、②サービス提供者(多くは非営利法人)に事業を委託し、③行政よりも効率的にサービスが提供されることで費用削減効果が生じ、④削減された費用から投資家に元本返済と配当を渡す、というものである。
 例えば尼崎市では、生活保護受給者のうち15~39歳の若者への就労支援として、様々な理由で求職活動が出来ていない彼らの自宅にNPO法人が出向いて呼びかけや啓発に取り組んでいる。このSIB事業では、彼らを市の就労支援事業につなげることを出口にしており、パイロットプロジェクト開始時点では、対象者200人のうち6人が就労すれば、1,450万円を越える行政コストが削減できるという試算結果が出ている。(※2)また、生活保護受給者の若者が働くようになれば市の財政負担が減る一方で税収増加が見込めるため、地域経済の活性化につながる効果も期待される。

資金の出し手から見たリスク
 もちろん理想的な結論に結実することは世界的にも極めて少なく、推進に際しては検討すべき課題が山積している。
 例えば、SIB事業には資金の出し手として金融機関や投資家が必要だが、彼らから見るとSIB事業参画には少なくとも次の2つのリスクが解決されていることが必要となる。
 第一に「効果が出なかった場合に元本は保証されるのか」。この点については、中央政府もしくは地方自治体が元本を保証することが望ましいという声が強く上がっている。若者の就労支援や認知症予防など、事業によって効果が出てくる時期が異なるため、元本保証のタイミングも含めた検討が必要である。
 第二の課題は「『筋の悪い案件』でないことを誰が保証するのか」。何らかの理由で長い間成果が出ていない公共事業の尻拭いをするようなSIB事業への資金提供は避けたいと金融機関は考えている。また、特にNPO法人が実施者の場合、大手民間金融機関では組織の実施能力等を審査しにくいため、行政もしくは第三者がNPO法人の事業実行性を評価する仕組みが必要となる。この点については、直接的な対策案ではないものの、NPO法人や地方小規模・零細企業への融資実績を有する信用金庫の協力を得ながら、実行性評価の仕組みを構築するのも一案である。

急がれる「ファシリテーター」組織立ち上げ
 SIBを社会的に意義のある取り組みとして、支援する意思を持つ国内の金融機関や投資家は少なくない。しかし、どのようなSIB事業案が存在するかを問い合わせたり、資金の出し手としての要望を伝えたりする先が存在しないことも、SIB事業に踏み出しにくい要因となっている。また、SIB事業は案件立ち上げから返済までのプロセスにおいて行政機関や金融機関を含め関わる組織が多く、スキームが複雑になりがちなため、頻繁に組成されないと、ビジネスとして効率が悪いとみなされてしまう。
 従って、事業に関わる各組織の役割分担やコミュニケーションを調整しながら案件を立ち上げ、推進をリードする組織が、SIBを金融商品として定着させるために欠かせない。この「ファシリテーター」役には、産官学に幅広いネットワークを持ち、金融機関の意思を正しく理解した上で、行政や地域社会と意見調整を行える組織が適している。パイロット事業の成果として、ファシリテーター組織立ち上げを示すことも必要である。

(※1)Social Impact Bond Japan「【閣議決定】SIB含む民間投資の活用や社会的インパクト評価の推進!」  
    (http://socialimpactbond.jp/news/)(2016/6/9access)
(※2)神戸新聞NEXT「社会の課題、民間投資で解決 尼崎市がSIB試験導入」
    (http://www.kobe-np.co.jp/news/hanshin/201508/0008339053.shtml)(2016/6/9access)


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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