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SDGsの「自分ごと化」を目指せ ~政府のSDGs実施指針に対するコメント~

2016年10月25日 橋爪麻紀子


 毎年9月中下旬に行われる国連総会が今年も幕を閉じた。同期間中は深刻化するシリア情勢や難民・移民問題を中心に、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)にも含まれるジェンダー平等、気候変動対策などの課題に関する議論やイベントが開催されたが、国内メディアで大きく報じられたニュースは安倍首相の北朝鮮への批難に関する一般討論演説程度ではないだろうか。本年はアメリカ大統領選やリオのパラリンピックの報道とも重なったこともあり、国連総会の印象は薄いものにあった。国内でのSDGsに関する動きとしては、安倍首相主導で2016年5月20日に全省庁が参加するSDGs推進本部が設置され、国連総会直前の9月12日には行政、市民社会、有識者、民間企業、国際機関等が集まる第1回SDGs推進円卓会議が開催されたことがある。わが国のSDGs実施指針と具体的施策の検討のための議論が行われたという。だが、国連総会の件だけではなく、こうしたSDGs推進に関する政府の動きも、国内メディアではほとんど報道されておらず、この状況を認識している一般市民は少ないのが現状ではないだろうか。

 メディアがこうしたSDGsに関する動きを大きく報道しない理由は、それが視聴者すなわち一般市民の関心が低いと考えているからだろう。では、なぜ一般市民の関心が低いのかというと、それは一般市民の多くがSDGsを「自分ごと化」できないからだ。「自分ごと化」とはマーケティング分野ではよく利用される単語であり、「その情報が自分に関係あると思わせること」である。一般的に、人は自分と関係ない情報に対しては関心を持たず行動も起こさない。しかし、自分と関係ある情報に対しては関心を持ち行動を起こす(例:消費やSNSの共有など)。つまり、一般市民にとってSDGsは自分に関係がないので情報を「スルー」するのである。「自分ごと化」できない原因は、(1)先進国ではなく途上国の問題という印象があること、(2)17の目標の分野が広すぎてわかりにくいこと、(3)政府、大企業、専門家に閉じた話という印象があること、などが考えられる。しかし、SDGsは本来途上国だけではなく先進国を含む地球規模の課題を含む開発目標である。加えて、すべての組織や個人が17の目標を満遍なく対応するものではなく各組織・個人の活動と深い関わりのある目標を認識した上で、優先的な取り組みから検討すべきものである。そして、SDGsが示す17の目標は最終的には一般市民の生活環境や社会インフラに密接に関わってくる内容であり、政府、大企業、専門家だけが取り組みに関与するものではない。こうした事実があまり認知されずに、政府主導のSDGs推進会議や円卓会議の中で実施方針や具体的施策が決まっていくために一般市民は自分とSDGsとの関係性を未だ構築できずにいる。

 政府はSDGsの達成に国を挙げた貢献を目指すならば、一部の有識者に閉じたアプローチではなく、GDPのうち約6割を占める個人消費の担い手である一般市民の存在をもっと重視すべきではないだろうか。例えば、一般市民がよりSDGsに取り組む企業を評価し、支持表明としてその企業の株への投資や、製品を購入するようになれば、企業側もよりSDGsへの取り組みに拍車をかけざるを得ない。わが国では過去にも環境問題や女性差別問題など、一般市民が声を上げたことを起点に、政府の施策・制度が変わり、企業の活動が変わり、社会全体が変わってきた例は少なくはない。現在政府が作成中のSDGs実施指針とその具体的施策においては、17の目標毎に各省庁の取り組みを整理するだけではなく、より一般市民がSDGsを「自分ごと化」できるよう具体的なコミュニケーション策を盛り込み、政府や企業によるSDGsへの取り組みを促進させるものであるべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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