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Business & Economic Review 2012年6月号

【特集 非製造業の海外展開を考える】
輸出拡大を通じた水産業の活性化-養殖を起点とする「垂直統合型」ビジネスモデルを突破口に

2012年05月25日 佐藤浩介


要約

  1. 東日本大震災によって被災した東北地方太平洋沿岸地域では水産業が産業の重要な部分を占めており、早期復興が至上命題となるなかで、改めてわが国の水産業活性化への関心が高まっている。


  2. 国内の水産業は、長期にわたって規模縮小が続いている。これには需給両面で問題がある。供給面では、排他的経済水域設定による遠洋漁業の縮小、乱獲による沖合漁業の水揚げ減少、安価な輸入品の流入等があり、国内水産品生産量は1980年代半ばのピーク時に比べてほぼ半減した。一方、需要面では、若年層を中心に「魚食離れ」が進み、国内消費量は90年代半ばのピーク時に比べて約2割減少している。


  3. 他方、海外の水産品市場は拡大途上にあり、世界全体での水産品の消費量は80年の約5,000万トンから1億トン超へ増加した。この背景には、諸外国における消費者の魚食志向の高まりと新興諸国での消費の増加があり、それに伴い、世界の水産品貿易も急速に拡大した。長期的に縮小が続く国内市場を考慮すれば、わが国水産業の活性化には世界市場を捉えていくことが不可欠となる。


  4. 拡大が続く世界市場において、ノルウェーは、近年急速に水産品輸出を拡大している。その強みを整理すると、①養殖ライセンスの自由化を通じた養殖サーモンの増産、②生産者による養殖・加工・販売までを一貫して行う垂直統合型ビジネスモデルの構築、③効果的なマーケティング、の3点が指摘できる。


  5. わが国水産業が活性化に向けて飛躍的に水産品輸出額を増加させるためには、経済成長が進むアジア地域を中心とする海外に高鮮度魚を輸出することが有力な戦略である。わが国でも規模こそ限定的ながら、高鮮度の養殖魚の輸出を行う経営主体は存在する。筆者がヒアリングしたそれらの経営主体は、ノルウェーと同様に、養殖・加工・販売を一貫する垂直統合型ビジネスモデルを構築している。ただし、輸出を拡大していくうえでの課題がある。主な課題としては、①養殖に必要な漁業権を追加的に取得するには時間を要するため、輸出増に対応できるように機動的に養殖規模を拡大するのが困難、②中小・中堅規模の経営主体であるため、海外展開に際して有効なマーケティングが実施できていない、という2点があげられる。


  6. 世界市場を見据えた新たな水産業の構築に向けて、官民が力を合わせてこれらの課題を解消していくことができれば、震災の被災地復興と合わせて水産業の活性化に新たな展開が期待できよう。
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