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Business & Economic Review 2012年6月号

【特集 非製造業の海外展開を考える】
わが国コンテンツ・ビジネスの海外展開強化に向けて-クールコリアを参考に

2012年05月25日 高坂晶子


要約

  1. 政府の成長戦略では、縮小する国内市場・デフレ対策として、コンテンツ産業にファッション、日本食、伝統工芸等も加えた「クリエイティブ産業」の振興が「クールジャパン」と銘打って掲げられている。背景には、アニメやマンガ、ゲームといったわが国のポップカルチャーに対する世界的な評価がある。


  2. もっとも、国内外におけるポップカルチャーの人気・知名度の高さとは裏腹に、コンテンツ関連産業(書籍、新聞・雑誌、映画、テレビ・ラジオ、音楽、ゲーム等)の括りでみた売上げは2010年まで3年連続で減少している。人気が売り上げに結び付かない現状を打破し、コンテンツの収益化を図る必要がある。


  3. この点、クールコリアを掲げ新興国市場を中心とする世界で売り上げを伸ばす韓国の事例は興味深い。もっとも、日韓の国内市場規模やコンテンツ産業の成熟度が大きく異なるため、隣国の成功プロセスを単純に日本に適用することはできない。韓国の成功要因を詳細に分析し、そのエッセンスを「いかに活かすか」が重要である。


  4. 韓国では通貨危機(1997年)の後、コンテンツ産業の育成と輸出振興を掲げた大統領の強いリーダーシップの下で人材育成、基盤整備、資金支援等が行われた結果、「コンテンツ輸出の急伸→キャラクターやタイアップ商品の販売増加→ブランドイメージ向上による韓国製品一般の販売増加→国の存在感向上とソフトパワー強化」という好循環が形成されている。同国の振興策は、①相手国本位のコンテンツ作り、②コンテンツ本体より、むしろ関連商品を収益源とするビジネスモデル、③親しみやすく大衆に訴求する内容と発信方法、に整理される。


  5. 上記振興策をそのまま日本へ適用しようとした場合、①作り手側の思想や感性を優先したプロダクトアウト志向の強い制作スタンス、②あからさまなタイアップ商法への抵抗感、③国内ユーザーをメインターゲットとしたハイエンドなコンテンツ作り、という特性がネックになることが想定される。ただし、これらはわが国ポップカルチャーがクールと呼ばれる所以である「高品質」や「眼の肥えたユーザー層」の素地ともなっている。本稿ではクールジャパンの特性を保ちながら、韓国方式のエッセンスの「活かし方」を追求する取り組みとして以下の3点を提案する。


  6. 第1は、コンテンツの本質的な要素を維持したまま、その内容を相手国市場本位にアジャストすることにより受容性を高めることである。その有力な方策の一つとして、フォーマット販売があげられる。フォーマット販売は、コンセプトと構成(テレビのバラエティ番組の企画・進行、マンガの人物・筋立て等)のみ販売し、コンテンツ本体は相手国で作成するもので、現在進行中の事例として、AKB48の姉妹グループJKT48(インドネシア)やクリケット版「巨人の星」(インド)がある。


  7. 第2は、すでに定評があるコンテンツを活かして日本製品の販売を促すビジネスモデルを拡大していくことである。すでにある事例として「ハローキティ」を起用した携帯電話等がある。従来のキャラクタービジネスは、通常、玩具、菓子等限られた商品を対象としていたが、今後、自動車、住居システム、自宅学習等、広範な製品・サービス分野と連携していくことにより、消費市場の高度化が進むアジア諸国におけるビジネスチャンスの拡大が期待される。


  8. 第3は、ユーザー参加型の楽しみ方を提案する取り組みである。インターネットを通じて動画やコメント等の発信が一般ユーザーにも可能となるなか、コンテンツの二次利用やユーザーによる日本発の創作活動(コスプレ、ボーカロイドによる作品製作等)が先進国を中心に広がりをみせており、こうしたユーザー主導の先端的な活動を積極的に新興国にも紹介し、関連商品・サービスの潜在的な購買層を開拓する。


  9. このような考察を踏まえ、改めて政府の取り組みを検討すると、多省庁が関与している割にポイントを外れており、総花的で効果が限られている。加えて、東日本大震災後は、風評被害対策等のため食材や地域の特産品もクールジャパンを掲げた輸出振興策の対象に加えられたため、イメージの拡散は否定できない。クールジャパン政策における政府の役割の再定義が求められており、日本のコンテンツ・ビジネスの成熟度を踏まえて、基本は民間の自発的な海外展開の取り組みに委ね、政府は固有の役割である法規制や国際交渉、教育投資等に注力することが望まれる。
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