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アジア・マンスリー 2016年2月号

【トピックス】
韓国景気の先行きを左右する投資の持続性

2016年01月29日 松田健太郎


韓国経済は、政府による景気刺激策を受けて底堅い成長が続いてきたが、足元で下支え役となっている建設投資や機械投資に先行き不透明感が強く、投資の動向を注視する必要がある。

■7~9月期も底堅い成長を維持
中国の景気減速により世界的に景気が鈍化するなかでも、韓国は底堅い成長を続けている。2015年7~9月期の実質GDPは、前期比+1.3%と前期(同+0.3%)から加速した。政策による押し上げ効果を受けて個人消費が同+1.2%と堅調に推移したほか、総固定資本形成が同+3.1%と前期(同+0.8%)から拡大した。総固定資本形成のうち、建設投資が同+5.0%(前期比寄与度+0.7%ポイント)、機械投資が同+1.8%(前期比寄与度+0.2%ポイント)と投資による景気の下支えが鮮明になった。投資の増加は、2015年1~9月期の建設投資が前年同期比+2.8%、機械投資は同+5.8%となるなど、15年入り以降、顕著になっている。この背景には、朴槿恵大統領の就任当初より継続的に打ち出されてきた不動産市場活性化策(住宅ローン規制や再建築規制の緩和など)の効果に加え、14年以降4度にわたる政策金利の引き下げに伴い住宅ローンや銀行融資の調達コストが低下していることが指摘できる。

一方で、投資の拡大によって住宅価格の上昇や家計債務の増加といった副作用が一段と深刻化しているほか、世界経済の減速の影響を受けて企業業績が低迷するといったリスク要因も散見されはじめている。こうした状況下、投資が今後も景気の下支え役を果たせるのかどうか注視する必要がある。

■足元では建設投資がけん引役
2014年の総固定資本形成のGDPに占める割合は28.9%となっている。形態別では、建設投資が13.9%、機械投資が9.4%、無形固定資産投資が5.7%と、建設投資の占める割合が高い。近年では、住宅投資の拡大を背景に、緩やかな低下が続いていた建設投資のシェアが下げ止まっている。

民間建設投資の先行指標である建設受注金額(前年同月比)をみると、15年入り以降、概ね大幅な増加が続いている。他方、住宅在庫は、11月に小幅増加に転じたものの、低水準を維持しており、住宅投資の拡大余地は残っている。

もっとも、需要側である家計部門では、構造的な問題である家計債務の増加が続いている。政府による一連の住宅ローン規制緩和のほか、銀行貸出金利の低下を受けて、15年9月末時点の家計債務残高は1,166兆ウォンと過去最大を更新した。韓国の住宅ローンは、約7割が元本返済なし(一定期間据え置きまたは期限一括)により利息のみを支払う方式にあることも債務拡大の一因とみられる。こうしたなか、危機感を強める韓国政府は、韓国金融委員会を通じて15年7月に「家計負債管理案」を発表し、同年12月に正式なガイドラインを策定した。これによると、住宅ローンの審査基準において、これまでの住宅の担保価格重視から借り手の所得重視とするほか、新規の住宅ローンは原則元本返済型とすること(一部例外あり)や金利上昇時の返済負担を勘案したストレス金利を適用するなど、審査基準の厳格化が示された。ソウルをはじめとする首都圏で2016年2月、その他の地方圏では5月から段階的に適用される見込みであり、住宅ローン規制緩和策により活況であった住宅投資を下押しする可能性が高い。

非住宅投資でも、企業による工場建設は大企業を中心とした一部の高収益企業に限定される公算が大きい。中国経済の減速を主因として輸出が低迷しているほか、海外への投資が続いていることから大半の業種で新工場などへの投資の増加は期待しづらくなっている。

以上を勘案すれば、建設投資は住宅投資を中心に拡大余地はあるものの、家計債務の増加を背景とした規制強化からピークアウトを迎えることが予想される。

■機械投資は操業率の低下や企業収益の悪化が重しに
他方、機械投資は前年同期比で9四半期連続の増加となるなど好調が続いている。ただし、企業部門を取り巻く環境が悪化していることには留意が必要である。有機ELや半導体などの一部業種による大型投資が全体を下支えしているものの、輸出の低迷を背景に製造業全体でみた操業率は2009年4~6月期の水準まで低下している。こうした状況下、機械投資の先行指標とされる機械受注額(前年同期比)も大幅に下振れており、先行き不透明感が強まっている。

韓国企業の収益をみると、元来海外景気に大きく左右される造船をはじめ、自動車でも中国の景気減速の影響から収益低下が顕著になっている。一方、半導体関連企業では収益は底堅く推移している半面、中国の競合企業の台頭やスマートフォンの需要鈍化を受けて、投資計画を先送りするといった動きがみられている。政策金利引き下げや創造経済の実現に向けた新規事業投資による一定の押し上げ効果は見込まれるとはいえ、収益環境が悪化するなか、機械投資の大幅な加速は期待できないだろう。

以上を踏まえれば、住宅投資や機械投資は一時的な景気の底上げに作用しているものの、景気のけん引力は限定的かつ短期にとどまる見込みである。家計債務の拡大や海外景気に左右されやすい企業収益基盤といった構造的問題の解消は道半ばであり、国内金融環境や海外経済の一段の悪化に伴う景気の下振れリスクは残存している。国際競争力のある企業が多い韓国経済は、中国経済の鈍化を主因に大幅な減速に見舞われている他のアジア諸国と比較すれば堅調とはいえ、経済構造の見直しがない限り、内需のけん引力に過度な期待はできない。海外経済の低迷長期化が見込まれるなか、持続的な成長に向けた本格的な改革に取り組む必要があるだろう。
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