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IoT/M2Mの捉え方

2016年09月05日 浅川秀之


要旨
●IoTは万能薬でも具体的な処方箋そのものでもないが、“バズワード”として軽視すべきものでもない。
●IoTを自社の事業展開のために有効活用させるためには、①自らの事業のビジネス構造を棚卸し、②その中にIoTがテクノロジーとして位置付けられる可能性を抽出し、③抽出された各案についてビジネスモデルが変化する可能性を検証する、といった導入および検証ステップが重要となる。

はじめに
 “IoT”という言葉が流行している。流行しているが故に、各社こぞって「IoTを取り入れて成長を」という声がよく聞かれる。しかしながら、いざ「IoTで何をするのか」を考えると、具体的な活用方法が見いだせず、一転「バズワード(定義やその効果などが明確でない流行言葉)ではないか」という声に変化してしまう。“IoT”は万能薬でもないし、具体的な処方箋そのものでもない。レベル感的には“インターネット”と同程度といってもよく、「インターネットを活用した新事業で成長を」と言ってもピンとこないのは当然であろう。
 IoTをバズワードとして捉えるのではなく、自社の事業に有効に活用させるためには、どのようにIoTを捉え、どのような施策を行うべきなのか。そのヒントとなる要点を述べたい。

IoTの一般的イメージ
 そもそも、IoTという言葉はどのように理解されているのか。次の2つが代表的な事例として取り上げられることが多く、一般的にイメージされているIoT像に近いと考えられる。

「インダストリー4.0」
 ドイツ政府主導で、同国の強みである製造業に革新を起こすべく、いかに効率的にモノづくり革新を進めるかを焦点にした施策。主には製造業向け施策であることから、“開発⇒設計⇒部品調達⇒製造⇒検査⇒出荷”という一連の生産プロセス(ビジネス)構造が対象となり、この構造の中の各ポイントにセンサーを配置し、リアルタイムに各ポイントからの情報を収集、制御することで、これまでのような“マス向けに大量生産”によるコスト低減を重視するモノづくりから、小規模ニーズに対してもきめ細かな少量生産を行い、一方で効率的なコスト低減を狙うといった、一見相反する要件を満たすために、IoTを活用することがポイントとなる。
 従って、IoTを活用する対象は製造業(生産プロセス)で、その目的は効率的なモノづくり革新である。

「インダストリアル・インターネット」
 米国においてコンソーシアム形態をとり、GEやインテル、シスコ、IBM、AT&Tといった企業が実質的に先導しながら進められている施策。製造業だけでなく、エネルギー、ヘルスケア、公共、運輸などの領域を広く対象とする。中核企業はGEで、GEは製造以外にも金融、医療、エネルギーなどさまざまな領域を事業対象とするコングロマリットであるため、この取り組みに積極的である。モノをインターネットに接続、様々なデータを収集、これらデータを分析することで、ユーザーに価値を提供するという考え方が基本。例えば、航空会社は、日々の安全運航業務のために、日常のメンテナンス業務が非常に重要となるが、メンテナンス過程で不具合部品や消耗品等が確認された場合は、機器メーカーに交換部品を発注し交換する等の措置をとる。このような航空会社の一連の基本ビジネス構造の中で、主要部品やメンテナンスシステムにセンサーやモニター機器類を設置し、これらから得られる情報をリアルタイムに蓄積、分析することにより機体のメンテナンスと飛行業務を最適化することが可能となる。
 IoT活用対象は製造業からサービス提供者、ユーザーまで多岐にわたり、その主な目的はユーザー価値創造といえよう。

 このように、IoTといっても、前者は生産プロセス、モノづくりそのものを主に対象としたもの、後者はユーザー価値に重きを置き、商品やサービス提供の上流からエンドユーザーまでのビジネス構造全体を対象としており、その目的や対象が両者で異なることが分かる。

IoTをテクノロジーの面からだけ捉えることの弊害
 IoTをテクノロジーとして捉え分解すると、基本的には「端末」、「センサー」、「ネットワーク」、「サーバー、データセンター」の4要素からなる。
近年急激にIoTが話題になり、実現性を帯びはじめている理由は、センサー類の技術向上(小型化、センシング対象の多様化、センシング能力向上)と低価格化、ネットワークやデータセンターインフラの拡充、蓄積および分析技術の高度化(いわゆるビッグデータ分析)などが挙げられる。つまり、ユースケースやニーズ先行というよりは、技術やインフラ整備が先行することによってIoTがコトバとして流行しだしたといえよう。
 このように技術先行で流行り出したキーワードゆえに、実際に活用しようとすると、IoTによって何ができるのか、何に使えるのか、何か得するのか、という話になってしまい、IoTの本来的活用イメージが想起されないという現状は、ある意味当然といえよう。バズワードと揶揄されるのもいたしかたない側面がある。

 バズワードと捉えられてしまう他の理由として、IoTをどのように活用するかは、主体(ドイツの製造業者なのか、GEのようなコングロマリットなのか等)のビジネスの目的や対象によって大きく異なるということである。先に述べた、インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットでは、前者の主体は製造業、目的は生産プロセス効率化である。後者の主体は製造業以外にも様々なサービス提供者も含み、その目的は顧客価値創造のためであり、そのためのIoT活用である。主体や目的が異なるため、単純に成功事例を自社に適応しようとしてもうまくいかないのは当然である。

 どのようにIoTを捉えるのかを考えるためには、上記のような背景を踏まえ、「自らの企業にとってのユースケース、利用価値」を見定める必要があり、ここを検証することが、IoTをバズワードと捉えず、自らの企業に活用するための第一歩と考えられる。では、具体的にどのように見定めていくのか。見定めるための考え方のポイントを次に示したい。

IoTの捉え方ステップ案
 最もシンプルなビジネス構造は“提供者⇒商品・サービス⇒パートナー⇒エンドユーザー”という流れで代表される。この流れの中で、「誰に(Place)」対して「何を(Product、サービスや商品)」、「どのように(Price、Promotion)」提供し、それによってどのような対価を獲得するのか、がいわゆるビジネスモデルの基本となる。「誰に」は法人(B to B)向けなのか、一般消費者(B to C)向けなのか、「何を」はモノの提供なのか、サービス提供なのか、またその提供価値は何か、「どのように」は顧客ターゲティングや営業施策などに相当する。

 まずは、自らの事業がビジネス構造の中でどこに位置付けられ、その前後のステークホルダーに対してどのようなプロダクトや価値を提供し、どのような対価を得ているのかを整理することが第1歩となる(ステップ①)。
 次に、整理されたビジネス構造の中で、IoTがテクノロジーとして導入可能な箇所を洗い出す。IoTの基本要素はセンサー類と、そこから上がってくる情報を収集、蓄積、分析するICT関連技術からなる。これら各技術が導入されて、何らかのメリットがありそうなパターンをリストアップする(ステップ②)。

 リストアップされた各パターンについて、「ビジネスモデルの変化の可能性を検証」する(ステップ③)。ここで、ビジネスモデルの変化とは、提供価値の流れが変わる、ステークホルダーの位置付けが変わる、価値提供主体そのものが変わるなど、ステップ①で整理されたビジネス構造において、その構造(位置付けや流れ)が変わるということを意味する。

 いわゆる“白モノ家電”は、家電量販店で購入し自宅で使用する、というのが一般的な購入プロセスであるが、例えばエアコンを例にとると、エアコンを家電量販店でいかに安く購入するかがユーザーの目的ではなく、ユーザーの最終的な目的はエアコンを部屋に設置し“快適な空間”を得ることである。この点に着目すると、エアコンや部屋に快適な空間を実現するための各種センサー類を設置し(温度だけでなく、日照や湿度、人の動きなどもモニタリングする)、センサー情報を基に快適空間の実現を制御するというモデルが想定される。このような仕組みを実現できるのであれば、ユーザーはエアコンの購入の対価を支払うのではなく、得られた快適空間に応じて対価を支払うという新たなビジネスモデルが考えられる(得られた快適な時間単位での課金など)。

 これはあくまで一例ではあるが、このような“売り切りモデル”から、ユーザーの求める“真の価値提供モデル”への変革は、IoTの特徴を捉えたものと考えられる。

 IoTはセンサーテクノロジーやビックデータ分析などのテクノロジーの名称と捉えられがちではあるが、その本質は「その適用によってビジネスモデルがどのように変化」するかを見据えることが重要で、このビジネスモデル変化の中で、自社にとってどのように収益を獲得していけるかを検討することがポイントとなる。この視点が無い限りは、いつまでたってもIoTはバズワードのままになろう。
以上

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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