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Business & Economic Review 2010年11月号

【特集 拡大する新興国経済と新たなビジネス展開】
力強く成長するブラジル経済

2010年10月25日 藤井英彦


要約

  1. 2010年に入りブラジル経済の成長ペースが加速した。単なるマイナス成長に陥った前年の反動ではない。内需の二本柱である消費と投資についてみると、次の通りである。

  2. まず個人消費は2009年初を底として次第に回復し、2009年末以降再び好調さを取り戻した。もっとも、所得雇用情勢は2009年に入って悪化し、年央から秋にかけて最悪期を迎えており、消費動向と平仄が合わない。一方、消費者マインドは、2008年10月から急速に悪化した後、年末から2009年2月を底に急速に改善しており、個人消費と整合的である。

  3. 消費動向が所得雇用環境よりも消費者マインドに左右された背景には次の事情がある。まず厳格な労働法制のもと、業績悪化や景気後退が解雇や賃金カットに直結しにくい事である。次いで着実な賃金上昇がある。多くの国々では労使交渉などによって賃金が決定される。それに対してブラジルでは政府が大きな役割を担う。近年、最低賃金が毎年春に改定され、それが全体の賃金改定のペースセッターの役割を果たす。賃金面でも企業業績や景気動向との連動性が薄い。一方、ブラジルでは都市化が進み、マスコミが普及している。そのため、大半の国民は内外の経済情報を正確に入手しており、深刻なショックが起きると生活防衛色を強めるものの、危機が去れば、再び旺盛な消費行動が顕在化する。

  4. 今後を展望しても、当面個人消費の力強い増勢が持続する公算が大きい。所得雇用環境が引き続き改善し、政府の積極的な支援政策が方向転換する兆しは見当たらないなか、耐久財をはじめ消費意欲が旺盛なためである。

  5. これまでブラジル経済の牽引役は個人消費であった。しかし、このところ設備投資の盛り上がりが著しい。従来、未整備なインフラが投資を阻み、成長制約に作用してきた。しかし、近年、経済成長に伴う歳入増に加え、海外からの資本が流入して資金面の障害が後退するなか、政府のインフラ整備が本格化する一方、企業の投資が盛り上がってきた。

  6. 政府は、インフラ整備のペースを今後一段と加速させる計画である。インフラ整備計画第1期の投資規模は2007年1,120億レアル、2008~2010年総額3,919億レアルであった。しかし、2011年以降の第2期では2014年までの総額で9,550億レアルと第1期対比倍増する。

  7. 地域別には、従来、サンパウロ州やリオデジャネイロ州など南東沿岸の都市圏が経済成長のリード役であった。しかし、インフラ整備の進展は内陸部など地域経済の発展を加速させ始めている。加えて、海底油田、海底ガス田開発の本格化がある。ちなみに2010年9月のブラジル政府の発表によれば、南東部沿岸の推定埋蔵量は500億バレルを上回る。

  8. 国内の所得格差は依然大きい。しかし、現政権の貧困層支援策、いわゆるボルサ・ファミリア政策が強力に遂行されるなか、引き続き所得格差は縮小に向かい、消費市場の底堅い拡大が続こう。加えて、原油をはじめ資源開発が本格化し、ブラジル経済の飛躍的成長を見越して海外から資本流入が拡大するなか、製造業分野を含め、企業の設備投資や政府のインフラ整備に拍車が掛かっている。安定的ながら成長ペースの緩慢な消費主導型経済成長からハイペースの投資牽引型成長モデルへの転換が進行中である。ブラジル経済の高度成長期が再び視野に入り始めている。
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