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【次世代農業】
農業ビジネスを成功に導く10のヒント ~有望な新規事業の種はどこに埋まっているのか?~ 第2回 ヒント(1)スマート農業が切り拓く新たな農業ビジネス
2016年06月28日 三輪泰史
1.日本農業が直面する課題
日本農業は長期にわたり衰退傾向が続き、農業産出額、農業従事者数ともに大きく落ち込んでいる。農業産出額は8兆円台にまで減少し、販売農家(経営耕地面積が30a以上または農産物販売金額が50万円以上の農家をいう)の数は1990年の半数程度にまで減少している。また耕作放棄地面積は42万3000haまで増加し、日本農業の土台は危うい状況にある。
このような長期的衰退からの脱却には、従来型の農業保護政策では不十分で、ピンチをチャンスに変える逆転の発想が求められる。「農業就業者の減少」というネガティブな現象を、「1人当たりの農地・マーケット規模の拡大」というポジティブな要素と捉えることが重要なのである。
2.期待高まるスマート農業
農業を魅力的な産業に変えるには、作業がきつくなく、他産業並みの所得が得られるビジネスとしなければならない。そこで注目されているのが、ICTやIoTを駆使したスマート農業である。
2010年代に入り、高速通信網の整備、スマートフォンやタブレットPCの普及、センサー類の低価格化、といった情報技術革新が起き、その波は農業分野にも広がりつつある。農水省や内閣府等の予算も投下され、自動運転農機(スマート農機)、農業ロボット、環境制御システム、農業ICT等の研究開発・実用化が急ピッチに進められている。例えば、環境制御システムを搭載した植物工場は、スマート農業の切り込み隊長ともいえよう。
スマート農機や農業ロボットは操縦不要なため、農業就業者の時間制約を解消する。それにより、農業就業者一人当たりの作業効率を大きく高めるとともに、より付加価値の高い商品企画の検討、栽培計画策定、技術開発といった業務に力を注げるようになる。農業就業者の役割はこれまでの作業者から、スマート農業や農業ロボットを指揮するプロデューサーへと変容し、所得水準の向上も期待できる。
3.スマート農業の普及のポイント
期待高まるスマート農業だが、普及を阻むハードルが存在する。一つ目が、投資額の高さである。スマート農機や農業ロボット等は非常に高額であり、投資に見合う効果を得るためには、「1人当たりの栽培可能面積増加」と「付加価値創出」を両立する技術でなければならない。費用対効果を無視した、儲かる農業につながらないスマート農機や農業ロボットでは普及はおぼつかない。
二つ目のハードルが仕様の共通化である。現在、スマート農機や農業ロボットは農機メーカー等がそれぞれ独自に開発を進めているが、独自仕様が乱立すると農業就業者の使い勝手が低下し、普及を阻害してしまう。また、農機・ロボット間の互換性が欠けてしまうと、農機・ロボットごとに異なるアプリケーションが必要となる。これでは開発費がかさむだけでなく、量産効果も見込めない。このような事態を防ぐためには、スマート農業推進のための農水省や内閣府の研究開発・実証事業において、中核部分の共通化やシステム間・機器間の互換性を義務付けることが有効である。それによって、スマートフォンのアプリ開発と同様に、ベンチャー企業、大学、有力農業法人等も研究開発・実用化に参画可能なオープンイノベーション体制が実現する。
最後のポイントが規制緩和である。スマート農機や農業用ドローンの活用には、法規制の緩和やガイドライン策定が欠かせない。農業ロボットについては2016年3月にガイドラインが公表されたが、まだ乗り越えるべき課題は多い。例えば、スマート農機が自動運転のまま農地間の公道も移動できるか、によって作業効率は大きく変わる。まずは特区制度等を活用しながら、成功事例を早期に生み出していくことが求められる。
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※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。