オピニオン
Post-FITに向けた再生可能エネルギーの事業モデル転換
2016年02月09日 瀧口信一郎
2015年7月、2030年時点の日本全体の発電設備構成を示すエネルギーミックスの方針が示された。再エネも国内自給率向上とCO2排出量削減の観点から22~24%に増加させる内容だ。
一方で、メガソーラーの急増に関心が集まっている。このままの増加が続けば、いずれ送配電網で受け入れられなくなるからだ。問題は、再エネには電圧・周波数変動制御が課されていないことにある。電力事業は電気の生産、運搬、小売のサプライチェーンのコストに加えて、変動調整コストが必要だという点で他のビジネスと異なる。需要量と供給量を瞬時に一致させないといけないという技術的な制約が存在するのである。
再エネ発電事業者に電圧と周波数の調整義務を課さない「優先給電」の制度設計が曖昧なまま、2012年にFIT(固定価格買取)制度が見切り発車した。当時の政権の方針で再エネ早期拡大が優先されたことが要因である。制度を曖昧にしたことで、再エネを早期拡大させるためには確かに有効だった。FIT制度以前は、変動の大きな電源を送配電網に接続する際の厳格な制約が、再エネ普及の妨げになっていたからだ。
ただし、官製市場であるFIT制度のインセンティブを重視しすぎれば、電力会社が調整負担を放棄し、再エネ発電事業者に転身することもあり得る。ドイツの火力発電は、FIT制度における再エネの優遇によって稼働率低下、再エネ調整のための高コスト運転が発生し、競争力が失われた。既に火力発電からの撤退を検討する電力会社も現れている。
2016年4月の電力小売全面自由化が目指すのは、電力業界の競争の加速だ。再エネが盛んになるのは良いが、調整負担を負う再エネ以外の発電事業者や小売事業者が割を食うようでは自由な市場は成り立たない。
再エネが電力システムに不可欠な構成要素として自立した地位を確立するには、火力発電のように変動制御を仕組み化し、責任ある電源としての事業モデルへの転換が必要となる。その場合、以下の3つのモデルが考えられる。
(1)一括マネジメント事業は、一括マネジメント会社が複数の発電事業者から電力を集め、電圧と周波数を調整したうえで電力を送配電網に送る発電型モデルだ。これまでの再エネの個別投資の段階は終わり、再エネの一括管理を行う発想だ。(2)再エネ調整型PPS事業は、小売事業者(PPS)が調整を行うモデルだ。小売りも担うPPSの責任で再エネにより発電するため、発電の無秩序な拡大も防げる。また、一定のエリアに限定して発電と小売りを担い、自ら需給バランスを取る。(3)需要地グリッドモデル事業も考えられる代替案である。
発電側の自主性を確保しながら自ら変動制御を行う(1)は、投資負担を抑えながら再エネの伸長を後押しできる現実的な解決策として特に有効だ。今後の再エネ普及の重要なプレイヤーとして拡大が望まれる。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。