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【次世代交通】
ライドシェアの解禁はなるか?(その2)

2016年01月26日 井上岳一


 世界で急成長しているマイカーを利用した有償での乗り合いサービス(=ライドシェア)。安倍首相は国家戦略特区の中でも、過疎地等に限定して解禁する方向での検討を指示しているが、果たして、ライドシェアの解禁は実現するのか?
 ライドシェアの解禁に当たっての争点は、大きく二つ、タクシーとの競合問題、安全性と責任主体の問題だ。以下、それぞれ見ていこう。

1.タクシーとの競合問題 
 自動車で人を運んで対価を得る行為は、旅客行為と見なされ、道路運送法による取り締まりの対象となる。旅客行為ができるのは、旅客自動車運送事業者(以下、旅客事業者)としての許可を受けた事業者のみで、バス、タクシーは、これに当たる。いわゆる緑ナンバーの世界だが、緑ナンバーを取得するには、法令で定められた基準を満たす必要があり、当然にコストがかかる。
 一方、自家用車(白ナンバー)で旅客行為を行うライドシェアに余計なコストはかからないから、タクシーより安い料金設定が可能だ。ただでさえジリ貧のタクシー業界に、強力な競合が出現することになる。
 タクシー事業者がほとんど存在しない過疎地なら問題ないだろうというのが安倍首相の提案だが、タクシー業界にしてみれば、一旦、認めてしまったら、無制限に拡大してくるのだろうという懸念がある。だから、絶対にライドシェアの解禁は認められない。それで全国的な反対運動が起きている。

2.安全性と責任主体
 ただ、国土交通省が気にしているのは、タクシーとの競合問題よりも、安全性と責任主体の問題である。ライドシェアは、自家用車だから車両の管理も運転手の管理もできない。当然、事故や事件が起きる危険性は高まるが、何か起きた時の責任主体は、運転手以外に存在しない。タクシーであれば、事業者の責任として処理されるが、そうはならないのだ。実質、旅客事業を行っているのに、その指導管理ができない。そこが所管官庁にしてみれば悩ましい。
 ライドシェア解禁を推進している新経済連盟は、オークションサイト等で有効に機能しているレビューシステムを取り入れること等でトラブルの発生は極小化できるとしているが、人の命が関わる旅客行為を、本当に民民の当事者間の自己責任に委ねておいて良いのか。そう考えると、所管官庁の側は、どうしても慎重な対応にならざるを得ない。

 このように、ライドシェアの解禁は、難しい問題をはらんでいる。とは言え、安倍首相から検討指示が下りている国土交通省としては、何らかの答えを出す必要がある。落としどころは、現在の自家用有償旅客事業(合法白タク)の範囲の拡大や手続きの簡素化、協議会の運営方法の改善等になるのだろうが、果たしてそれで良いのか。
 ライドシェアの解禁問題は、公共交通のあり方含め、地域交通のあり方を見直す絶好の好機である。2020年の実用化が目指されている自動運転が普及すれば、地域交通網は激変する。それを見据えた時、今のうちから準備しておかなければいけないことは何なのか。ライドシェアの解禁問題を契機に、そういう本質的な議論が行われることを期待したい。

前回の連載はこちらからご覧ください


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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