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日本総研ニュースレター 2015年7月号

加速する日本農業のグローバル化 ~新興国マーケットで稼ぐための戦略~

2015年07月01日 三輪泰史


海外展開の必要性
 日本農業は長期にわたり衰退傾向が続き、かつて12兆円近くに上った農業産出額は、今や8兆円台にまで減少している。日本国内の農産物マーケットは、「人口減少」、「一人当たりの農産物消費量の減少(高齢化、食生活の変化等)」、「農産物価格の頭打ち」の三重苦のなかで、なお一層の縮小が不可避な状況にある。
 一方、新興国では急激な経済成長に伴い、富裕層向けや上位中間層向けの付加価値の高い農産物マーケットが形成されてきた。この新たな有望マーケットの獲得を目的に、2014年6月に農水省を中心にグローバル・フードバリューチェーン戦略を策定した。その柱として掲げられるのは、農産物輸出および現地進出の推進である。

農産物輸出の現状と限界
 品質の高い日本産農産物は、海外の富裕層からの高い人気を誇る。2014年の農林水産物(加工品を含む)の輸出額は6000億円を超え、過去最高を記録した。農林水産省が掲げる2020年に輸出額1兆円という目標に向けて、比較的順調な推移と評価できる。輸出手続きや運送等に課題があるものの、品目別輸出戦略の重視、公的な支援による積極的なマーケティング、輸出向け商品の開発・生産等の効果が発揮されていると考えられる。ただし、輸出額増加の主な要因の一つに円安がある。農産物輸出ではドル建て取引も多く、円安によって統計値の見た目がかさ上げされていることは客観的に捉える必要があろう。
 農産物輸出のさらなる拡大の鍵の一つが、適切なブランド化である。近年、新興国のデパートやスーパーマーケットで日本産農産物フェアが開催される機会が増えているが、例えば和牛やイチゴでは日本の産地間のライバル意識が強いせいか、産地間で内輪揉めするケースも散見される。結果として、知名度の低い「地域ブランド」が乱立し、消費者に浸透しないまま店頭から姿を消すケースも少なくない。そうした事態を避けるには、はじめは複数の産地の商品を統一された「ジャパンブランド」の名の下で安定供給し、小売店に常設の日本産売場を設置してもらうことが重要となる。地域ブランドとしての独り立ちは、そうしたマーケティング活動で知名度を獲得した後で遅くない。新興国マーケットでのブランド確立には、ジャパンブランドと地域ブランドの二段ロケットが必要となる。
 ただし、農産物の輸出拡大には限界がある。動植物検疫による輸入の禁止のほか、運送コストの高さゆえに中間層が購入できる価格帯で輸出できないことも少なくない。日本農業の活性化を輸出のみに背負わせるのは荷が重い。

現地生産・現地販売のビジネスチャンス
 農産物輸出が課題を抱える中、日本の優れた農業技術・ノウハウを活かし、海外にて付加価値の高い農産物を現地生産、現地販売する「日本式農業モデル」の普及・拡大が期待できる。日本式農業によって生産される「日本式農産物」は、高級品である日本産農産物の一つ下の商品カテゴリー(セカンドブランド)として、上位中間層向けの商機を狙うことが可能となる。植物工場や農業ICTといった、日本の農家の匠の技の一部を取り込んだ使いやすい設備・システムも既に実用化されており、栽培環境が異なり、農業者の技術習熟度が低い海外においても、日本産に近い品質を再現しやすくなっている。
 日本式農産物は、優れた品質面・安全面に加え、“Made with Japan”という付加価値を獲得している。既にアジア各国で先駆者が現地展開を始めているが、通常の現地産農産物よりも高い評価を消費者から獲得し、高価格で販売されているケースが少なくない。また、現地の雇用創出、農業者の技術習得等にも効果があり、地元自治体から歓迎されている。

日本産農産物+日本式農産物でジャパンブランド構築を
 日本から輸出する日本産農産物と現地で生産する日本式農産物は競合関係ではなく、トップブランドとしての日本産農産物とセカンドブランドとしての日本式農産物として互いに補完関係にある。日本農業のグローバル化の一層の推進には、日本式農業の認証制度の確立や、日本産+日本式での普及活動(テストマーケティング)等、両者を包含した日本ブランドを構築することが重要となる。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。