オピニオン
シェールガスは天然ガスに過ぎない
2015年07月28日 瀧口信一郎
米国のシェールガス田を視察する機会があった。シェールガスはシェール層という薄い岩石層に点在する化石燃料ガスである。垂直に井戸を掘るだけでは容易に噴き出さないため、シェール層に到達したら水平にも掘削して、岩石中に裂け目を作り少量ずつガスを取り出すことで商用生産を可能としている。日本ではシェールガスが米国のエネルギー構造を変えると伝えられ、日本の新たなエネルギー調達源として大きな期待が寄せられてきた。その一方、この1年の原油安・天然ガス安を受けて、市場の混乱が伝えられ、その有望性への疑念も強まっている。
今回シェールガスの生産・流通を見聞きして、シェールガスは天然ガスに過ぎないことを再認識した。地中での埋まり方が違うだけなので当たり前だが、水圧をかけて岩石中に裂け目を作るなどシェールガス特有のプロセスはあるものの、結局は全米に張り巡らされているパイプラインに送りこまれる。通常の天然ガスかシェールガスかで色はない。
通常の天然ガスとシェールガスは、ビジネス上、採掘リスク、生産コストに違いがあるに過ぎない。最終的にはパイプラインで運ばれる天然ガスが価格指標にのっとり市場取引されるだけだ。技術の進歩でリスクの見極めも進んできており、今後リスク判断・ノ要する能力は、天然ガス採掘のそれに近づく。シェールガス田の採掘コストは通常の天然ガス田より高いが、これも程度問題であり、現状の低水準の米国天然ガス市場価格でも、米国のシェールガス生産量は落ちていない。もっと言えば、高金利のハイイールド債で調達しているシェールガス企業に問題が生じているだけで、米国のビジネス慣習で言えば、シェールガス企業が破たんした場合、他の企業が安くその企業を買収して、低コストでシェールガス生産を行うようになる。
米国のエネルギー市場はマーケット価格で動く。シェールガスの意味は天然ガスマーケットに多くの供給力を追加したことである。価格が下がり過ぎれば採掘や生産は止まり、価格が上がるのを待って、採掘や生産が再開される。米国内に限ればシェールガス企業はファイナンスルールに従って、純粋に利益追求で動いている。国際政治の影響もゼロではないが、その単純性ゆえに、日本のエネルギー調達にとって、他国からのものよりも相対的に取り組みやすい。
今後も日本のエネルギーにとって化石燃料は欠かせない。多様な化石燃料の調達手段の一つとして米国天然ガス市場の活用はプラスに働く。採算コスト改善でシェールガスの増産が可能になり、一方で米国内の価格が低ければ、相対的に価格が高いアジアへの輸出が起こる。逆に、米国内の価格が高くなれば天然ガス供給業者は国内重視に転換する。センセーショナルなシェールガス報道に右往左往せず、冷静にこの米国天然ガスマーケットの状況を判断する姿勢が大切ではないかと感じた。
※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。