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日本総研ニュースレター 2015年4月号

公共交通における新たな官民連携の必要性

2015年04月01日 松村憲一


公共交通分野での規制緩和の行く末
 従来、わが国においては、「官から民へ」、つまり民間事業者ができることは民間事業者に任せることが是とされてきた。公共交通分野でも、2002年の道路運送法の改正以来、規制緩和等が進められ、バスやタクシーの自由参入・自由撤退等が認められるようになっている。しかし、参入事業者は増加したものの、需要があるエリアばかりに供給が集中して過当競争、過剰な価格競争などが引き起こされる一方、地方部では路線の撤退が相次いだ。結果として需要は増えていない。個別事業者が部分最適で行動したがゆえ、公共交通ネットワーク全体の魅力を高められなかったのが原因と考えられる。
 ドイツでは、1970年頃以降、自家用車との競争で単独での生き残りが難しくなった公共交通事業者が、カルテルである運輸連合を組成し、ゾーン運賃制の導入や交通モード間のダイヤ調整などを図りながら、競争力を回復してきた。最近では、マスタープランの策定や事業者間の調整を行政が先導するなど、行政が運輸連合に直接関与するケースが増えている。さらに、マスタープランをもとに、地域で参入できる事業者を競争入札で選定する動きも加速している。公共交通ネットワーク全体のデザインを行政が主導し、事業者は効率的なオペレーションに徹するという、新たな官民連携スキームの構築が進む。

活性化再生法の改正~逆PPPの動き~
 わが国でも、昨年、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律が改正され、これまでの事業者任せではなく、行政が主体的に公共交通ネットワークの形成に関与し、官と民が適切に役割分担・連携する方向へと転換しつつある。「民から官」への、いわば「逆PPP」である。
 人口が減少するなか、これまで補助金に頼って事業を続けてきた、地方の鉄道・バス事業者の経営環境は、今後さらに厳しさを増すことが予測される。今回の法改正によって、市町村や都道府県が中心となって、地域の公共交通ネットワークのあるべき姿を検討し、路線再編や経営統合、そして観光振興やまちづくり、健康増進等の政策と連携させた需要創造の促進が期待される。
 動きは既に始まっている。第3セクター鉄道である北近畿タンゴ鉄道沿線では、行政主導によるマスタープランのもとで、鉄道事業をこれまでの上下一体方式から上下分離方式に転換させた。インフラ整備・保有は引き続き北近畿タンゴ鉄道が担い、オペレーションは、公募プロポーザルで選ばれた高速バス大手のウィラーエクスプレスに任せるという新たな官民連携スキームを導入し、2015年4月1日に「京都丹後鉄道」としての運行を開始したのである。インフラ面は公的セクターが担い、オペレーションは全国的な集客ネットワークを有する民間事業者に任せることで、地域への観光集客増による地域活性化を狙う。

官民連携による新たな事業スキームの構築へ
 行政への積極的な働きかけにより、事業再生を展開する事業者も成果を手にしつつある。
 みちのりホールディングスでは、岩手県北バス、福島交通、会津バス、関東自動車、茨城交通の各事業者に100%出資し、各地域の交通事業の再生に取り組む。車両購入や人材育成の共同化で経営効率を高めるほか、自治体と連携して、それぞれの地域に対応した独自の事業再生を展開しつつある。例えば、岩手県八幡平市では、岩手県北バスが抱える市内の路線バスと市が運営する患者輸送バスを一体化して市のコミュニティバスへと路線再編させることで、市の財政負担の軽減と岩手県北バスの営業利益増加を実現させた。福島交通では、高齢者の外出機会の増加を図りたい福島市との協同事業 「ももりんシルバーパスポート(高齢者無料乗車証)」 の導入で、75歳以上の利用者を大幅に増やしている。
 いずれにせよ、既存の地域の交通事業者が単独で生き残ることは難しいのが地方部の現実である。事業拡大をめざす地域外の交通事業者をはじめ、集客に公共交通が欠かせない大規模商業施設や医療機関等の他業種も含め、地域内外の意欲のある新規事業者の参画も得ながら、それぞれの地域に見合った官民連携の新たな事業スキームを構築し、持続可能な公共交通ネットワークを形成することが急務である。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません
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