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ソーシャル・インパクト・ボンドは社会保障費削減の切り札になるか

2015年07月14日 渡辺珠子


 今年4月15日、横須賀市が特別養子縁組の推進を目的としたパイロット事業を開始した。注目すべきは、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB: Social Impact Bond)という、日本では新しい資金調達の仕組みを取り入れていることである。

 SIBは2010年に英国で始まった官民連携投資スキームである。(1)行政がSIBを起債して、公的サービスの提供に必要な費用を民間から集め、(2)公的サービスの提供は非営利組織(NPO)等に委託し、(3)効率的な実施によって生み出された行政費用の削減分から、出資者に返済・配当する、という仕組みである。英国では刑務所での再犯防止プログラム実施にSIBの仕組みが使われており、再犯率が下がることで削減される刑務所運営費用を、投資家に還元予定である。社会問題の解決や経済成長に有効な手段として、現在までに米国、カナダ、豪州や韓国でもSIBが導入されている。

 日本ではSIBを導入することによって、介護や福祉サービスにかかる社会保障費用を削減できるという期待がある。冒頭に挙げた横須賀市のパイロット事業の場合、今年度目標の4人の特別養子縁組が成立すると、将来にわたる行政負担がおよそ半分になる計算である(※1)。さらには、家庭養護へ移行することによって、学習の遅れや愛着障害といった施設入所児童の課題解消に繋がる可能性も指摘されている。成功すれば社会全体に還元される非金銭的メリットは大きい。

 この他、高齢者介護分野でもSIB導入を前提とした認知症予防および重症化予防のプログラムの実証事業が経済産業省によって採択された他(※2)、子育て支援や動物保護施設整備に適用するアイデアも出ている。一方でSIBが日本に普及するには、いくつかの障壁がある。出資者への返済・配当は、将来現れる行政コストの削減分からまかなわれるという仕組みであるため、単年度会計制度の中でどう予算化するかが、特に大きな課題である。しかし、日本の社会保障費全体が毎年1兆円程度増加している現実を考えれば、行政負担を削減できるSIBの仕組みを確立・普及することは、もはや待ったなしの状況と言える。なお、単年度会計制度への対策としては、基金を立ち上げて資金をプールする案も出ている。行政と民間が連携し、出来ることをスピード感を持って取り組む姿勢が今まさに必要とされているのである。

※1) 18歳まで児童養護施設などで暮らした場合の経費は、4人で約3,530万円だが、今年度目標が達成されると、約1,630万円の節約が見込まれている。http://japan-indepth.jp/?p=17622
※2) 今年6月9日に、経済産業省が実施する「平成27年度健康寿命延伸産業創出推進事業」において、公文教育研究会の脳機能の維持・改善に効果があることが科学的に実証されている「学習療法」活用した「成果報酬型ソーシャルインパクトボンド構築推進事業」が採択された。 http://www.kumon-lt.co.jp/socialimpactbond201606

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