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地方創生のための観光まちづくり
(1) 眠れる宝の発掘

2015年03月02日 小林味愛


1.はじめに
 わが国は、他国に先駆けて「人口減少・超高齢社会」の危機に直面している。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2060年の総人口は約8,700万人まで減少し、高齢化率は将来的に41%程度まで上昇する。こうした傾向は地方部でより顕著であり、東京圏をはじめとした都市部への過度の人口移動も相まって、中山間地域では集落の維持・存続すら危ぶまれる状況にある。
 こうした現状を打破していくために、官民の垣根を越えて「地方創生」に関する議論が展開されている。政府は、昨年12月に、日本の人口の現状と将来の姿を示し、今後の目指すべき将来の方向を提示する「長期ビジョン 」(※1)と今後5カ年の目標や施策の基本的な方向等を提示する「総合戦略」を策定し、地方創生をテコとしたわが国全体の活力向上を目指している。ただし、これらの一国全体で示される「地方創生」に関する枠組みが今後成果を発揮するかどうかは、主役となる各地域が自ら考え、責任をもって課題解決に取り組むことができるかどうかにかかっていると言える。
 以上を踏まえ、本稿では地方創成に関する総合戦略において、地域産業の競争力強化の方策として掲げられている「観光」をテーマとし、特に「観光まちづくり」の観点からそのあり方を検討していきたい。

2.観光とは
 「観光」という言葉は現代社会では当然のごとく一般的に用いられているが、まずこの「観光」という概念を今一度紐解いてみたい。
 「観光」の語源は、学説上は中国の古典『易経』に記載されている「観國之光。利用賓于王」(國の光を観る。もって王に賓たるによろし)に由来するといわれており、「観光」とは「国の光華盛美 」(※2)を主体的に「観る(≒see)」という意味合いが強かったと想定される。また、広辞苑によると、「観光」は、「他の土地を視察すること、また、その風光などを見物すること」と定義されており、やはり日常から離れた場所を主体的に「観る(≒see)」という行為に重きが置かれている。
 この点、平成7年の観光政策審議会の答申では、「観光」は「余暇時間の中で、日常生活圏を離れて行う様々な活動であって、触れ合い、学び、遊ぶということを目的とするもの」と定義されており、「観る」という行為に留まらず、「触れ合い、学び、遊ぶ」ことを目的とする様々な活動を含有している。このように、現在の「観光」の概念は、その言葉に含有される意味が個々人によって多様化していると考えられる。

3.観光に関する地域の課題
(1)時代の変化
 ここでは、観光の概念の変化を時代の流れとともに簡単に見ていきたい。わが国では第二次世界大戦後、高度経済成長を背景に国民の可処分所得と余暇時間が増加し、さらに、高速道路の建設や新幹線の整備をはじめ観光の基盤である交通が発達したことにより、観光が飛躍的に発達していった。観光の大衆化・大量化を特徴とする団体旅行を中心としたいわゆる「マス・ツーリズム」時代の到来である。しかし、特にバブル経済崩壊後は、団体旅行よりも個人旅行のニーズが大きくなり、体験型の観光商品の増加など個人の嗜好を反映する商品が求められるようになってきた。マス・ツーリズムの時代は「有名な観光地」や「大量輸送・大量宿泊が可能な場所」であれば、地域に眠っている「宝」をさほど精査せずとも観光客を集めることが可能であった。しかし、現在の個人旅行のニーズを満たすためには、その地域の宝の「魅力」を今一度精査した上で、その地域を訪れる動機付けを行うことが極めて重要になってきている。

(2)観光を地域活性化につなげるための課題
 観光による地域活性化を図る工程としては、以下のSTEP1からSTEP3までをたどることが考えられる。しかし、筆者は各地域を訪問する中で、多くの地域において、いずれかのSTEPで行き詰ってしまっていると感じている。
【STEP 1】地域の宝の再発掘および再評価(クールなプロデュース)
 まず、①観光で活用できる地域資源(宝)が発掘されていない場合がある。また、仮に地域資源が観光資源として活用されていたとしても、②その観光商品が個人旅行のニーズを満たしていない等市場ニーズに適合していない(クールなプロデュースができていない)場合が多い。さらに、仮に市場ニーズに適合した商品であったとしても、③滞在時間を延ばす等観光客1人当たり消費額(交通費、宿泊費、観光施設使用料、飲食費、土産購入費、プログラム体験料、商店街での消費等)を最大化するビジネスモデルになっていない場合が多く、観光による地域への経済波及効果が限定的になってしまっている。
【STEP 2】受け入れ体制の整備
 STEP1を満たす観光商品が出来上がったとしても、④既存の観光事業者・行政・市民等のステークホルダーの連携が乏しく、受け入れ体制が整っていない場合が多い。
【STEP 3】情報発信をはじめとする異なる地域間との連携
 仮にSTEP2までを達成した観光商品が出来上がったとしても、⑤情報発信が地域ごとに個別・断片的に行われており、当該商品が認知されていない、あるいは⑥認知されていても訪問意欲を駆り立てる「クール」な見せ方ができていない場合が多い。また、⑦既存顧客による体験談発信等のプロモーションの仕組みが整っていない。

【観光による地域活性化を図る主な工程】

 以下では、上記STEP1のうち、①「宝の再発掘」に焦点をあてて、そのあり方を考察していきたい。

4.宝の再発掘~観光まちづくり~
(1)観光まちづくりの必要性
 個人旅行が重視される新しい観光の潮流の中で、地域資源を再発掘し観光客のニーズを掴んでいる地域もあれば、その流れに追いついていない地域も多く存在する。特に、マス・ツーリズム時代に団体旅行に合わせて発展してきた地域では、廃業した施設やバブル期の匂いを感じさせる閑散とした施設が多く存在する。このような施設は経営者の手腕の問題として片付けられる傾向にあるが、仮に一施設の経営を軌道に乗せられたとしてもその地域全体の魅力を向上できなければ、その地域を訪れる動機を作ることは困難である。
 このような中、近年、全国各地で観光による地域振興を目指す「観光まちづくり」の必要性が盛んに叫ばれている。「観光まちづくり」は「地域が主体となって、自然、文化、歴史、産業、人材など、地域のあらゆる資源を活かすことによって、交流を振興し、活力あふれるまちを実現するための活動 」(※3)などと定義されており、上記STEP1の①「宝の再発掘」の過程においては、まさにこの「観光まちづくり」の視点が重要となってくる。
 例えば、飛騨古川では、旅行コンサルティング会社の(株)美ら地球が中心となって飛騨地域に残る景観、民家、文化等の「里山資源」を活用し、ツーリズムを通じて交流人口・定住人口を増やし、地域の里山資源が継承されることを目指した事業を実施している。具体的には、主に①飛騨里山サイクリング、②アート&カルチャー、③タウン&ビレッジウォーク、④ロングステイ(貸家ビジネス)という4つのプログラムを実施しており、なかでも飛騨里山サイクリングの参加者数は毎年2倍以上増加し、2014年は年間約2,000人を集めたという。新たに「ハコモノ」を建てるのではなく、地域そのものの良さを見つめ直し、自然(田んぼ、農作業風景等)、伝統文化(酒造り、古民家等)、住民(日常生活)等の地域資源(眠れる「宝」)を活用し、地域の暮らしに触れる観光を実施することにより、活力あるまちづくりを進めている代表事例といえよう。
 このように、現在は「観光資源」と「地域資源」とをほぼ同義で捉えて観光地づくりそしてまちづくりを進めることが必要となってきている。

(2)地域が観光まちづくりに取り組む意義
 従来、観光は観光客が地域を訪れることによって発生する交通渋滞や風紀の乱れなどのいわゆる「観光公害」が懸念され、地域住民に疎まれる面があったことも否めない。これは、観光の恩恵が既存の観光業者をはじめとした一部の利害関係者のみにとどまり、地域の住民や観光業以外の業種に携わる人々を含む地域全体がその恩恵を享受できていない、あるいは享受していると実感できていないためではないだろうか。
 この点、「観光まちづくり」の仕組みは観光による経済効果のみならず、住環境としての地域の維持・改善にも寄与するという、まさに観光の恩恵を地域全体で享受する鍵といえよう。というのも、「観光まちづくり」は、既存の観光業者のみでなく、行政、住民、商店街、農業事業者、地域のNPO等多様な主体が参画する取り組みであり、合意形成の過程においてそれぞれの意向が少なからず反映される仕組みとなっているからである。その上で、地域が観光まちづくりに取り組む意義としては主に以下の点が考えられる。
 ・観光による経済波及効果
 ・地域の問題意識(危機感)を共有し自ら作り上げていくことによる地域への刺激
 ・地域を観光的視点から構築し直し競争力を強化することによる地域の特性・魅力の向上
 ・観光的視点のみならず「まちづくり」の視点を入れることによる住環境の改善
このような地域全体にとっての意義を地域ごとに明確に示すことにより、「観光まちづくり」の参画者を増やす必要がある。

(3)宝の再発掘(観光まちづくり)の方法~多様なステークホルダーの協力の必要性~
 地域に眠っている「宝」は、観光の専門家であれば簡単に発掘できるという類のものではなく、まずは地域の住民が発掘しなければ気づかないものが多くある。例えば、筆者が会津若松で打ち合わせを行っていた際、地元の方々が「この建物は山川捨松(※4)が住んでいた場所だ」との話をしてくださり、全く観光資源とはなっていない建物にそのような眠れるストーリーがあることに驚いた。これはあくまでも眠れる宝の一例に過ぎないが、このように、地元の人々にとっては身近すぎて観光の対象として認識されておらず、特に地元の人々から教えてもらわなければ外部の者はまず気づかない地域資源も多く存在する。
 このような眠れる宝は、もちろん街中にも存在するが、いわゆる里山に存在することが多々ある。地域にある自然・文化、地域独特の田園風景、里山にまつわる昔話やお祭りが代表例であろう。したがって、地域において観光資源を発掘するためには、客観的な評価を行う外部の観光専門家や既存の観光業者のみならず、前述のとおり地域の住民や観光業ではない他の業種に携わる人々等地域の多様なプレーヤーの参画・協力が不可欠になってくる。これは、住民参加・合意形成というまさに「まちづくり」の手法そのものといえる。

5.おわりに~「外もの」が参画する勇気と「外もの」を参画させる勇気~
 ここまで観光まちづくりの必要性を述べてきたが、観光まちづくりは多様なステークホルダーが参画するため、当然、合意形成に時間がかかるとともに具体的な合意形成自体も極めて困難な取り組みといえる。まだまだ成功事例が少ないのは、一般論を理解されても、実際に動くまでに時間がかかったり、あるいは具体的な行動まで伴わない抽象的な議論で終わってしまったりすることが多いからであろう。
 もちろん、地域リーダーをはじめ「地域の中」からこのような取り組みを始めることが重要なのは言うまでもないが、やはり「外もの」にしか出来ないことも存在する。客観的な視点からの評価はもちろんであるが、そのような取り組みを通じて地域の多様なステークホルダーを組織化していくコーディネート役も利害関係の少ない「外もの」だからこそ出来る役割だと考えられる。筆者も「東京もの」として煙たがられることも多々あるが、真剣に向き合えば向き合うほど、最終的には「想いは通じる」と実感している。
 「地域をつくりあげる」ことや「地域の意思決定をする」ことは当然その地域に委ねられるべきことであるが、そのきっかけをつくるために煙たがられることを恐れずに「外もの」も地域の取り組みに参画することが必要ではないか。
 地方創生の取り組みとして、地域にお金をばら撒いたりトップダウン方式の施策のみではこれまでと何も変わらず、持続可能な仕組みを構築することは困難である。「外もの」が傍観者とならず地方創生のために汗をかくこと、そして、その「外もの」を参画させる地域側の勇気も、今求められていることではないだろうか。
以上

(※1)「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(長期ビジョン)」平成26年12月27日 「まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)」平成26年12月27日
(※2)今井宇三郎『新釈漢文大系23 易経上』明治書院(1987)
(※3)(財)アジア太平洋観光交流センター(APTEC)『観光まちづくりハンドブック』(2001)
(※4)明治政府が派遣する日本初の女子留学生。有志共立東京病院(現東京自慈会病院)の看護教育所の創設に尽力。慈善活動家。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。




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