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日本総研ニュースレター 2012年6月号

日本の「経験」を地方の中核病院に輸出せよ
~ヘルスケア分野における中国地方政府との協業~

2012年06月01日 松岡靖晃


中国に訪れる「未豊先老」社会
 中国では2015年以降急激に高齢化が進む。GDPでは日本を追い抜き世界第2位の大国となったが、一方で住民格差が拡がり、物質的には豊かとはいえない住民が多数を占める状況のまま高齢社会を迎えることになる。各地方政府では、社会保障費の増加を抑えつつ、来るべきこの「未豊先老」社会をよりよくさせる施策に頭を悩ませている。
 日本総研では、かねてより地方政府との間で政策ディスカッションを定期的に実施しているが、高齢社会日本の実態に関する問い合わせを多く受けるのが最近の傾向だ。中国がやがて迎える未豊先老社会に向けて、地方政府が、既に課題が顕在化しつつある日本市場から示唆を得ようとしていることを肌で感じる。

医療機器は「治療システム」に組み込んで差別化を図れ
 ヘルスケア分野の充実は、未豊先老社会における大きな課題の一つだ。例えば、慢性疾患の代表的な疾病である、透析治療が必要な終末期腎不全の患者は中国でも急増が見込まれ、国や地方政府は対策強化の方針を掲げている。さらに、未豊先老社会の到来で患者の一層の増加が見込まれる一方、高額な医療費や医療スタッフの技術不足、透析治療機関不足等の問題が山積し、十分な医療サービスを提供できていないのが実情だ。
 ただし、社会保障費の増大が課題になっている中国では、サービスとコスト削減との両立が常に求められ、それは透析治療も例外ではない。そこで、コストをかけずに多くの患者に透析治療を提供するために、コスト全体に占める割合が高く、価格が見えやすい「モノとしての医療機器」の価格を抑える政策に傾きがちとなる。それは結局、中国系企業の廉価な医療機器が台頭し、代わりに日本企業の高価な医療機器がシェアを失いかねないことを意味する。
 日本企業がこの問題を解決するには、医療機器価格を抑えることに頼らないコスト削減策を含めた、「システムとしての透析治療」の提案が欠かせない。つまり、透析治療プロセス全体を見直すことによるコスト削減をはじめ、日本流のスタッフ教育、日本の透析センターを参考とした治療機関設立支援など、日本での経験を踏まえた解決策を地方政府に示すことが重要だ。この「治療システム」が「結果として安くつく」ことを理解させられれば、高価でも日本の医療機器の必然性が認められ、価格競争を回避できる。

地方政府肝いりの中核病院をショーケースに育てて展開
 ヘルスケア分野は、当局の方針・規制に強く影響を受けるため、規制の権限を有する地方政府と良好な関係を構築することが必須だ。すなわち、事業を通じて地方政府の課題解決を支援できれば、その企業は中国のヘルスケア分野で有利なポジションの獲得ができる。
 日本企業と地方政府の両者にとって最も有益と考えられる施策の一つは、日本企業と地方政府が管轄する中核病院が、共同でモデル事業を作り込むことである。地方政府にとっては課題解決のための先端モデルが構築でき、日本企業は経験や商材をその地域で展開する足がかりにすることが期待できるからだ。
 モデル事業は、まず中国全土が抱える課題解決の先導役と位置付けた上で、指導する地方政府、実現する中核病院、支援する日本企業という構造の中で発展させる。そして、未豊先老社会が本格到来した際に、他の地方政府や病院からの照会に対応するショーケースとして活用し、その仕組み全体のデファクト化を狙う、という流れだ。
 モデル事業が、中国の課題解決を実現するシステムとしての認知を獲得できれば、その中で使われる商品も必須のものと理解され、さらに企業自体も中国の課題解決パートナーとしての位置付けを内外に知らしめることができるだろう。
 これまで日本企業は、中国の急激な成長と共に事業規模を拡大できた。しかし、中国が成熟化に向かう今後は、中国社会が抱える課題の解決の支援が成長モデルの核となるのではないか。
 「日本は先行する高齢社会」という認識がある中での日本企業からの提案は、欧米企業には真似のしにくい差別化された提案になり得る。日本のヘルスケア関連企業は、この中国側の意識を機会ととらえ、日本市場での経験を踏まえた課題解決プロジェクトを提案し、地方政府にとって必要不可欠なパートナーを目指すべきだ。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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