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日本総研ニュースレター 2012年3月号

需要家の節水意識を起点としたスマートウォーター

2012年03月01日 梅津友朗


水供給の課題は「省エネ」に焦点
 上下水道が普及するようになって以来、水供給で最も重視されてきたことは、水質面・水量面のセキュリティを同時に確保することであった。しかし、さまざまな技術開発が進んだ今では、水供給にかかわる全ての過程で、セキュリティ確保のための必要最低限の技術は一通り揃うようになった。
 現在の水供給の過程における最大の課題は、各プロセスで消費する多大なエネルギーの節約である。例えば、都内の上下水道で必要とする電力量は、家庭部門の約1割に相当するほどであり、水利用の今後を考えるに際しては、エネルギー消費の視点が欠かせない。

スマートウォーターへの期待
 こうした背景から生まれた概念が、「スマートウォーター」である。スマートウォーターとは、水供給過程全体を管理し、取水から水処理、送水、利用、さらに下水道に至る各プロセスの状況をデータで把握することにより、無駄の原因を特定しやすくさせ、運用改善を進ませるシステムで、節水および省エネへの貢献が大きく期待されている。
 スマートウォーターの主眼をエネルギー消費削減に置いた場合、供給側の省エネの取り組みだけでは限界があり、需要家側の協力が必須となる。しかし残念ながら、需要家は協力する以前に、水利用でエネルギーを消費している事実さえほとんど認識していないのが実情といえる。

水のエネルギー消費の見える化
 需要家の協力を得るためには、節水が省エネに資するという事実を、一般の需要家が「体感」できる環境を整えることが有効である。すなわち、水利用によるエネルギー消費の「見える化」が重要である。既に欧州では、見える化の手段としてカーボンフットプリントを取り入れ、水の使用量表示の単位としてCO2排出量を使用し始めている。また、日本でも、東京都水道局のホームページなどでは、水道使用量を入力するとCO2排出量が算出できるシステムを導入している。しかし、CO2排出量の意味を正確にイメージできるのは、環境意識の高い一部の需要家に限られ、効果は限定的であると考えられる。需要家の理解を得、水利用における省エネ意識をさらに喚起するためには、新しい見える化の仕掛けが必要となる。
 その一つとして、例えば、需要家のコスト感覚とも直結しやすい“kWh”を、“㎥”、“CO2排出量”に次ぐ第三の水使用量の単位として表示することも一案である。電力同様にエネルギーとして利用される原油やガスなども便宜上kWh換算し、従量料金に組み込むなど料金体系とも関連させることで、需要家の節水による省エネ意識の向上が期待できる。

水のデマンドレスポンス
 水のエネルギー消費の見える化は、節水による省エネからさらに一歩進んだ発想へとつながる。省エネを目的とした水のデマンドレスポンスである。水需要のピークを電力需要のピークと関連付け、水と電力のエネルギー管理の一体化を図れれば、全体最適化を実現できる。例えば、水利用は朝の洗濯や夕方の炊事・入浴等の時間帯に偏る傾向があり、一方で電力も夕方の時間帯が一つのピークとなる。そこで、変動価格制(ダイナミックプライシング)の採用等により、その時間帯に需要家の自発的な節水を促すことができれば、水道利用の平準化が進み、結果的に電力のピークカット、つまり、電力インフラの効率化にも貢献することになる。
 ただし、水と電力の需要特性はそれぞれ異なる要素に影響されるため、水と電力の双方が同時にピークを迎えるタイミングは季節や気候等の条件次第で異なる。また、送水や水処理におけるエネルギー消費と水使用のタイムラグも課題である。ただ、電力にはない「簡単に貯留できる」という特徴から、水需要の平準化は比較的容易であり、デマンドレスポンスには大きな効果が期待できる。

スマートウォーターの展開
 将来のスマートウォーターの展開では、水利用の効率を最大化させることはもちろん、エネルギーインフラとの連携による波及効果を見据えた取り組みが重要となる。震災でエネルギーインフラに大きなダメージを受けた日本は、今まさに新たなインフラの形を生み出すべき転換期の渦中にいるのである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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