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日本総研ニュースレター 2011年8月号

再生可能エネルギーの導入促進にファイナンスの視点を

2011年08月01日 青山光彦


3.11後の電力需給の逼迫と再生可能エネルギー
 東日本大震災を契機に、電力供給のあり方についての議論が活発になっている。今まで重要なベース電源の一つとされてきた原子力発電は、運転停止や定期点検後の再稼動の遅延等で稼動が低下しており、代替エネルギー種が至急必要な状況にある。当面は、天然ガス火力発電といった調整電源で供給を賄い、需要側でもピーク時の電力消費低減を図るデマンドレスポンスが検討されている。
 ただし、中長期的には、再生可能エネルギー(以下「再エネ」)へのシフトが対策の中心となるだろう。エネルギー自立をはじめ、エネルギー産業振興、そしてCO2削減という観点からも再エネへの期待は大きい。

再生可能エネルギーの普及を阻む壁
 風力や太陽光といった新エネルギーの導入普及率は、一次エネルギー供給ベースで約3%、発電量ベースでは約1%に過ぎない。以前から注目される再エネが伸び悩む理由としては、様々なリスクの存在が指摘される。
 例えば、再エネ事業には天候リスク(十分な日照や風況等が得られない可能性)をはじめ、開発リスク(設置場所がない・住民との対立が生じる可能性)や制度リスク(政策・制度に影響を受ける可能性)等の事業リスクが存在する。
 また、再エネ事業を資金供給側から見た場合、情報面や人材面でのオペレーショナルリスクがつきまとう。ファイナンスの歴史の浅い再エネ事業について、資金供給側の知識がまだまだ乏しく、事業を正しく評価できないのである。
 さらに、再エネ事業には、投資先・融資先の事業案件数が少なくリスク分散が難しいという市場リスクも存在する。こうした特有のリスクが嫌われ、資金需要者(再エネ事業者)への資金調達が円滑に行われなかったり、取引コストが割高になったりする等の課題が生じているのが実情である。初期コストの高い再エネ事業者や資金供給者を制度面、情報面から支援する仕組みづくりを急がなければ、金融機関によるファイナンスは、今後も活発にはなりにくいと予想される。

市民によるファイナンスが鍵
 ただし再エネ事業のファイナンスには、一つ明るい兆しがある。それは節電等を契機に、人々が改めてエネルギー問題に関心を寄せ、その重要性に気付き始めたことである。
 これまで再エネのファイナンスは、銀行や投資機関が中心であった。市民レベルについては、資金供給するファンドの仕組みもあったが、あくまで出資者は環境問題やエネルギー問題への意識が高い一部の層に限られていた。
 その風向きが変わってきた。市民が出資して風車を建て、発電実績による配当を得る「市民風車ファンド」等では、震災後に一般からの出資・応募希望者が急増したという。
 また、工業用地等に新エネルギー・省エネルギー機器をリース形式等で導入し、発電した電力を電気事業者へ販売する、という「地域発電所」の立ち上げを企画し、市民に出資を募る計画も一部地域で進められている。
 さらに、市民が資金供給する環境の整備でも各種の進展が見られる。震災被災地の企業がインターネット上で公開した復興企画に対し、「出資半分・寄付半分」で市民が直接資金を提供する市民出資型ファンドの試みも現れた。いずれはエネルギー関連にも発展すると考えられる。
 こうした市民出資型ファンドの認知度はまだ低いが、各活動に通底するのは、事業ベースというよりは、ファイナンスという手段で市民が主体的に社会参画を行おう、という姿勢である。これまでエネルギーを単に使う立場であった市民が、小口ながら自らもリスクを持ち、未来を見据えながらエネルギーファイナンス分野へ進出してきたことは、ファイナンス分野として大きなパラダイムシフトだろう。
 再エネは、市民出資型ファンドの活用が可能になるだけの関心を集めるようになった。また、再エネ事業者がこうした資金調達を行うことで、市民は一層エネルギー問題を「自分ごと化」するだろう。さらに地域での共同発電等のスキームが、地域コミュニティ社会を活性化させる等の好循環を生むことも期待できる。
 再エネ事業には、売電用の系統接続枠の確保といった課題が残るのも事実である。しかし市民によるファイナンスの活性化が普及を促進し、さらにそれが課題解決への追い風に発展する可能性さえあるといえるだろう


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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