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日本総研ニュースレター 2013年10月号

オランダ農業の強みと課題に学ぶ

2013年10月01日 三輪泰史


大規模経営で収益を高めたオランダ農業
 苦境が続く日本農業の打開策として、狭い国土で優れた農業技術を活かしているオランダ農業に注目が集まっている。既に農水省がオランダの施設園芸団地をモデルとした大規模施設園芸団地の立ち上げを打ち出す等、実現に向けた動きも出始めた。
 オランダは日本の4割程度の狭い農地で、かつ人件費が高いにもかかわらず、アメリカに次ぐ世界第2位の農産物輸出国となっている。花卉、トマト・パプリカ等の果菜類等、チーズを始めとする畜産物等が主要産品である。ドイツ、フランス、ベルギー等のEU諸国が輸出先の約8割を占めており、陸海空を兼ね備えた物流機能、およびEUの市場統合による関税や検疫等の廃止が輸出を後押ししている。
 1980年代までは家族経営の小規模農家が多く、産地ごとに卸売市場が設けられていたが、現在ではその多くが解散している。1990年代前半の欧州の市場統合によって小売業の寡占化が極端に進行したため、農産物は大手小売店への直接販売が中心となり、市場でマッチングする必要がなくなったからである。小売りの安定・大量供給ニーズに応えるため、農家は大型化し、農業法人による農業経営が主流となっていった。この過程のなかで、高い収益を上げる成功事例が多数現れた点が評価されている。

「技術力」「選択と集中」「支援体制」が強さの源泉
 オランダ農業の中核である施設園芸の強みは、①技術力、②選択と集中、③支援体制、の3点に集約される。
 一つ目が技術力の高さである。1960年代からは空調・水耕等の設備の伴った高度な温室栽培が本格化し、1980年代には現在のオランダ農業の象徴ともいうべき、ガラス温室で環境制御システムを活用するトマト等の栽培手法が実用化し、効率性と安定性が大きく向上した。温度、湿度、光量、CO2濃度、風速等を最適に自動制御することで、トマトの単位面積あたり収量は日本の3倍以上にまで高まっている。
 二つ目が、選択と集中による、得意品目への特化である。オランダではトマト・パプリカ・キュウリの3品目で施設園芸作物(観賞用を除く)の栽培面積の約8割を占める。品目選択は農家の自己裁量で、収益性の高い品目に集中することで、農家の生産スキルやリスク管理能力が向上した。加えて、メーカー・農業コンサル等の技術開発も効率化され、さらに技術が高まるという好循環が成立している。
 三つ目が、農家の支援体制である。日本では農協等が一手に担う指導・金融・流通等の各機能を、農業技術コンサルタントや独立系パッキング企業等が個別に収益事業として展開する。各機能に特化することで事業者のサービス水準は向上し、農家には資金借入先から販売先や調達先の制約を受けるなどの不都合が生じない。農家への支援は、補助金よりも農家の育成環境整備が重視され、差別化の源泉となる研究開発への投資も手厚い。国内の農業系大学と公的農業試験場を集約してワーゲニンゲンUR(ワーゲニンゲン大学と試験場の2部門で構成)を設立して研究開発の効率化が図られた。現在、ワーゲニンゲン地域にはワーゲニンゲン大学を中心に多くの農業・食品関連企業が集約され、「フードバレー」と称されるまでの存在感を示している。

選択と集中には課題も
 注目集まるオランダ農業だが、一方で課題も顕在化してきている。一つ目が過剰生産である。各農家が自ら栽培品目を選択した結果、トマトをはじめとする得意品目への集中が進み過ぎて過剰生産が生じ、価格が低迷したのである。二つ目が他国産との競争激化である。トマトではスペインやポーランドなどの台頭が著しい。特に、露地栽培にIPM(総合的病害虫管理)の導入で、無農薬農産物のニーズに応えるスペインとの価格差は1~2割にまで縮まっている。
 オランダ農業が採るべき対応策として、他品目もしくは高付加価値へのシフトが挙げられるが、選択と集中の弊害で、研究開発・商品開発までもが現時点で収益の上がる品目に偏重しており、次の一手が打てない状況に陥っている。
 産業として農業が成立しているオランダ農業から学ぶことは多いが、日本農業の活性化につなげるにはオランダ農業を盲信したり、技術・システムを表面的につまみ食いしたりすることは避けなければならない。オランダの成功の土台となっている「強い農家」を前提とした産業構造は、八方美人な日本の農業政策では実現困難なことを強く認識すべきである。


※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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